第27話 触手だからって歴史の授業で眠くならないとは思うなよ
多分空を見上げた連中は、俺たちが大気圏とやらに突入した光景を見たら流星だったと思うだろう。しかし流星の中、外から見たら火だるまだが、中は普通の温度である。当たり前だがそうでないと焼け死んでしまう。温度が普通なのと、周囲が燃えてるのは別だ。さしもの俺たちでもこの光景はちょっとしんどい。
あ、始祖が震えてる。エウロパに至っては何かプルプルしている。お前漏らすなよ!絶対漏らすなよ!怖いのはわかるけど俺席隣なんだからな!!人間の、尊厳のためにも!!やがて、空が明るく青くなってきた。さらに減速しているようだ。よかった。無事大気圏とやらに入ってきたようだ。
「燃え尽きずに済んだようだな」
「よかったぁ……」
「もうすぐ着水するぞ」
レナードの言う通り、下に湖が見えてきた。空から見たことはないが、近くに森もあったことからすると俺の故郷なのか?カプセルは更に減速して、やがて水しぶきとともに大きな音を立てて着水した。
「この後岸まで進むからしばらく待ってろ」
「どのくらいかかる?」
「10分ほどだな」
それならトイレは大丈夫だよな。ん?なんでグリグリされてるんだ俺?エウロパが小声でささやく。
「レナードに借りた道具のおかげで助かったよ……」
「そうなのか?それは良かった」
なんのことだろう?まぁ問題なかったのなら何よりだ。なんか微妙に臭うのは気のせいだろうか?気のせいだよなぁ。そんな不穏な空気もあったが、着水したカプセルが岸までに進むにつれて、俺は簡単の声を挙げた。
「帰ってきた!俺は帰ってきたぞ!」
「よかったな触手!」
ブレンにも喜んでもらった。本当に帰ってこれた。まさか宇宙経由だとは思わなかったけどな!海底洞窟とか温泉とか経由するとも思わなかったけどな!あと何か気がついたら一緒にいるやつが増えたけどな!
「さてと。このまま中央サーバーに向かうぞ」
レナードが俺たちとともに目的地の中央図書館を目指すことになった。ブレンのブレンやヴァンパイアの不妊の解決になるかもしれないからな。
「触手とはここでお別れか?」
「いや、ここまできたらついでに図書館で本とか読みたくなってきたな」
「ならまだ一緒に行くか」
「そうだな」
こうしてブレンたち一同と一緒に図書館に向かうことにした。図書館に近づいて気がついた。この図書館もあの素材でできているのか、塔の素材みたいなやつ。やはり古代の文明の遺産なんだろうな。信じられないがこうやって存在するのだから。
図書館の入るなり、レナードが裏の方に周りこんでいく。一同不思議に思いながらも黙々とついていく。やがてレナードが壁の一部に手を当てる。その隣の壁の一部が、四角く光を放って沈み込み、そしてドアのように横にスライドする。
「何があるんだろこの奥」
「サーバーはこの奥だ。ついてこい」
レナードに案内され、階段や通路を進んでいく。天井が微妙に明るく、ここが高度な技術で作られていることを再確認する。しばらくいくとエレベーターがあった。またエレベーターか。先程は登っていったが、今度は降りていくのか。
降りていくエレベーターだが、また結構な深さである。一同無言で上のモニターを見つめている。何があるのかさっぱりだが、とにかく降りて行く。降りてついた通路の先をしばらく進むと、何やら雨漏りのような音がする。
「サーバーのメンテナンスしないとな……どうやら水漏れがあるようだな」
「水漏れ?」
「湖の水でサーバーを冷却しているんだ」
なんで冷やす必要があるんだよ。サーバーってなんなんだ。そういうことを思っているうち、部屋にたどり着く。何か椅子がある。レナードがそこに座ると、無数の線が降りてきてレナードと接続される。
「あっちゃー。メンテナンスにはだいぶん時間かかるな。これは」
「そうなのか?」
「ちょっとした調べ物ならできなくもないが。ブレンだったか。性的不能の原因を調べたいんだな?」
「ああ」
「なら、ちょっと待て。これ使えるか?」
レナードが何かガチャガチャやるうち、部屋の一部がせり上がる。
「ブレン、ここに横になれ」
「わかった」
今度は上から何か筒みたいなものが降りてきた。そのまましばらく色々と機械音が響く。
「ほうほう……うんうん………なるほど……」
「ブレンはどうなのレナード?」
「今照合中だ。若干めんどくさいがなんとかなるなこれなら。神経系にトラブルを起こしてるだけか。よしならN3系のnanomachine投入して」
「いてっ!」
急にブレンが叫び声を上げた。
「しばらくは痛むがすぐに良くなる。厄介なもの投入されてたが、もう大丈夫だろう」
「本当!?よかった!!」
「これで繁殖できるなエウロパ!いてっ!」
「デリカシーがないのは触手もだよっ!!」
エウロパには豪快に叩かれた。でもここまで一緒に旅してきたブレンが、元気になるのは俺としても嬉しいことである。
「あとはそっちのヴァンパイアたちか……ブレンの後で二人とも調べよう」
こうして始祖たちも治療を行うことになった。治療の効果についてしばらく調べているようだ。しばらく治療を行った後、ヴァンパイアたちも始祖の繁殖系に問題がありそうなので、こちらについてはゆっくり治療を進めることになった。
「ふう……なんとかなりそうだな」
その夜、俺たちは湖の近くの街の宿を取ることにした。例の機械とレナードがいれば色々と薬の合成系も確立できるし、俺たちは大金持ちになれるんじゃなかろうか。まぁ俺もう湖に帰るから関係ないけど。
「よかったよー。ブレンのブレンが復活できないとしたらどうしようかと思ったし」
「繁殖できなかったら大変だからなエウロパも痛い痛い」
「お前らほんとどっちもデリカシーないよな」
そういうブレンだが、口調とは裏腹に笑顔である。酒も食事もうまい。
「妾たちもうまくいきそうじゃ。色々試したがなんとかなるとなるとこれからが楽しみじゃ」
「そうですね始祖」
「俺の部屋と離せよなお前ら」
「心配すんな触手、今日はお前の部屋俺たちの隣だから」
「ブレンたちの隣なら問題ないな」
あれ?何か忘れてないか?いや忘れてるくらいだから大したことはないな。酒や食事を進めているうち、レナードや始祖が昔話をはじめた。どうやら古代の人類がなぜあの塔を作ったかについてである。
「あの塔は宇宙に出やすくするためのものだ。ロケットでは膨大なエネルギーが必要なところを、軌道塔ならはるかに少なくて済む」
「そうじゃったな。しかし何故人類は宇宙を諦めたんじゃ?」
「外宇宙探索の際に、外の『脅威』が発見されたことにある。その脅威というのは……」
眠くて話が頭に入らん。久しぶりに酒を飲んだ、いやよく考えたら俺酒飲んだことないぞ、誰だよ飲ませたのは?
「くーくー」
と寝息を立てているファブリーだが、お前か?全く困ったもんだ。
「触手、始祖、俺たちそろそろ……」
「おう寝るのか。また明日な」
「ぼくも寝るね。おやすみみんな」
「おやすみー」
ブレンたちも部屋に戻っていった。おい、ファブリーお前も寝ろよ。触手で顔をペタペタする。
「ひゃっ!?び、びっくりさせないでよ」
「寝ろよファブリー」
「そうね。わたしも寝るわ」
「妾たちも寝るかのう」
そんな感じで流れ解散と相成った。しかし何か肝心なことを忘れているような気がしていたんだが……そうだよ!忘れていたよ!ブレンのブレンが復活したことをな!
翌朝?当然寝不足だったよ!「今夜は寝かさないよ」ってやかましわ!「一緒に頑張ろうね」って俺は頑張りたくない!色ボケヴァンパイアたちとレベル変わらないだろ!いい加減にしろ俺はこんな宿出て行くぞ!
そう思って夜宿を出ようとすると、見知った馬がいた。ラコクオー!すっかり忘れてた!
「おい、どうしたラコクオー!?」
「ここにいたか触手たちは。大変なことになったぞ!」
なんだよ大変なことって?俺の寝不足より大変なことなのか?とりあえずなんにせよ今は寝かせてほしい。
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