第8話 触手だからって郷愁を感じないとは思うなよ
「そうか、行くのか……」
ライデンの家に帰った俺たちは、古代図書館(と俺の故郷)を目指して旅をすることになったことをライデンに告げた。ライデンはそれだけ呟いた。
「この身体も他には問題ないとはいえ、やっぱり精神的にキツいものあるからな」
しみじみ言うなよブレン。オスとして気持ちが痛いほどわかるから困る。
「同じ方向に向かうことになるから、俺も手伝おう。図書館に行くまでに治ったらまた別だが」
「もし万が一途中で治ったら、こっちが一緒に行ってやるよ」
「はいはい、仲がいいね」
なんで怒ってるんだよエウロパ。妬いてんのか?俺触手だしオスだぞ。
「でも、二人だけで大丈夫なのかな」
「なんだよエウロパ」
「だって、待ってるだけなんでもう嫌だよ!一緒に行きたいよ」
「ライデンに止められただろうが。大体今回だっていきなり攫われたし」
「そうだぞ。ブレンのブレンが復活したら思う存分繁しおい本気で殴るなよ割と痛いぞ」
「流石に今のは殴られて当然だと思うぞ、触手」
半分冗談ではあるんだが、そんな中途半端なアプローチするくらいならさっさと繁殖すればいいんだよ。ムードとか言われても触手だし分からんからな。……何故か触手仲間にも同じことを言われた記憶を思い出した。どいつもこいつも。
「……悪かった、調子に乗りすぎた」
「そうだ、奢る約束忘れてないよね触手」
「あっ……こうなったらブレン、行くぞ!」
「お、おい!」
俺はブレンを引っ掴んで逃走を開始する。貸し2とか勘弁してほしい。
「待て触手ぅ!逃げんな!」
げっ!エウロパのやつなんであんな足速いんだよ!おいこらブレン早く来いっての!
「気をつけて行くんじゃぞぉ!」
家の方からライデンの声がしてくる。……すまん、ライデン。いや、気がついていたかもしれないが。
「……うまくいったかな」
「いいのかエウロパ、ライデンが怒っても知らないぞ」
「でも、実際のところ回復魔法とか使えるぼくがいた方がいいんじゃないかな」
それは否定できないな。旅の仲間がオス2匹ってのもどうかとは思うし。
「それもそうだな。男二人より華があった方がいいだろ触手も」
「うーん……それならエウロパの身体に触手が生えてたらいいんだが……」
「うげ」
「要求レベルが高すぎだよ!」
悪かった。もし触手生えてたら性的な意味で危険なことになってブレンと本気で奪い合いしそうだから、なくって幸いである。
旅立つ前に結局エウロパに食い物とか防具とか奢る羽目になった。口は災いしか呼ばない。これからしばらく黙ろう。そう思っていたのに。
「触手さん!」
「ミーアじゃないか!何してんだ!」
「ここのお店で働いているんです」
「触手、隅に置けないね」
「どうやって知り合ったんだよ」
ブレンの意見もわからなくはない。触手と人間の接点って普通ないからな。
「ミーアは俺と一緒にあの紫のヤツに捕まってたんだ」
「紫ゴブリン被害者の会だなこれは……」
「ぼく会員がこれ以上増えないことを願うよ」
エウロパのいうこともわからないでもないけど、絶対増えるんじゃなかろうか。あの紫を早く倒さないとな。そもそも紫が一番の害悪というわけでもない気はするから、大元も絶たないといけない。
「ところで、何かおススメの食べ物ある?」
「フリッターとかどう?」
「油っこそう……」
「そんなことないよ、食べてみて」
ミーアがエウロパに試食をさせている。
「結構サクサクだね。いいよ!ぼくとブレンと……触手は食べられる?」
「魚か?なら食べるぞ」
「三人分、払って」
「……おう」
俺は渋々ミーアにフリッターのお金を手渡す。ニヤニヤしながらエウロパが説明しているようだな。
「触手がデリカシーないから奢って貰ったんだよ」
「あーわかります。確かにデリカシーないですよね」
俺は喋るのやめたほうがいいのかもな、メスの前では。そんなことをフリッターを食べながら思った。フリッター自体は美味かったのでいつか来ようと思う。またな、ミーア。
旅立つ準備としてエウロパの防具を買ったあと、ふと財布を見たら銀貨8枚しか残ってなかった。思わず不平不満も口に出る。
「酷くないかさすがに」
「デリカシーさえあればこんなことにはならなかったと思うぞ」
「他種の生物にそれを要求するか普通」
ブレンはデリカシーのこと指摘するけど、実際問題路銀が足りない。これからどうやって行けばいいんだよ。
「旅の途中でギルドの依頼とか手伝って稼がないとどのみちダメだろうな」
「ブレンはお金持ってるの?」
「金貨が12枚と銀貨数十枚」
「金持ちすぎだろ」
「三人で宿とか泊まったらすぐなくなるぞ。稼ぐのは必須だ」
ブレンが保存食や旅に必要なものをメンバー分用意してくれた。甲斐性のあるオスはモテる、ほとんどの生物種で共通である。
「なるほど、エウロパが繁……おっと、惚れる、だったか?わけだ」
「そ、そんなこともあるかな……えへへ」
甲斐性のあるブレンのブレンが復活すれば、エウロパも繁殖できるだろうからなぁ。何故エウロパに拳で身体をグリグリされてるんだ俺。
「今変なこと考えたよね?」
心を読まないでほしい。
さて、そんなこんなで街から旅立ち、太陽が一番高くに登って……結構な距離を歩いてきたのでそろそろ昼飯にしようか、そう思っているとだ。遠くの方から何かが走ってくる。動物のようだが……。ブレンの顔色が青くなる。
「バイコーンだとっ!エウロパ、下がってろ!あいつらは危険なヤツだ!性的な意味で!」
「純潔うんぬんより馬サイズだと命にかかわるよねそれ」
黒いツノの生えた馬が走って来ている。しかも複数だ。エウロパ狙いか?その前に始末するか、そう思い地属性攻撃(投石)を始めようとしていたら……後ろから巨大な黒いツノを持った馬が走って来て……馬の群れを前脚で蹴った。
「えっ?」
「どういうことなの?」
「なんだよあのデカイの」
俺たちが疑問に思っていると、巨大な馬が叫んでいる。
「うぬらは変態なのか!?人間のメスを襲おうとするなどとはっ……!」
叫びながらバイコーンたちを吹き飛ばし続けている。それを聞いた時に俺は確信できた。……こいつとはきっと仲良くなれると。
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