第21話 触手だからって目的を見失わないとは思うなよ


 一人頭金貨10枚とか随分豪勢なことになった。フェニックスは微妙な顔をしていたが、それでも宿の主人がホクホクしているのを見て「まぁいいか」とカギア火山に帰って行った。ありがとうフェニックス、お前の首の犠牲は無駄にはしないからな。(もっとも不死の存在からしたら爪切ったくらいのものかもしれない)


 とりあえずもう一泊してからそろそろ旅立つことにしたい。俺の目的はあくまで故郷に帰ることなんで、紫ゴブリンとか気にならないわけではないけど、そこは被害者の会会長ブレンに任せようと思う。


「みんな、俺は明日には旅立とうと思うんだが、どう思う?」

「ちょっと触手!まだ生えてないじゃん触手が。痛々しいけど大丈夫?」

「そこまで急いで行くこともなくはないか?」


 エウロパとブレンにそんなことを言われる。言われてみると確かにな。そこまで急いで行くものでもないし、身体は治さないといけないな。とはいうものの、メシ食って風呂入るだけってのは飽きるな。


「それはそうだが、さっさと身体を治したら先に行くぞ」

「そうだな。俺たちも図書館へ向かわないとな」

「ところでブレンのブレンってどうなったの?」


 またデリカシーのない発言をするなぁエウロパ。でも俺も気にはなる。ブレンの触手が復活しないのは他人事ながら不安になる。


「……わずかに動かないこともないような」

「それじゃダメじゃな」

「確かに、子作りにはそれではダメだな」


 お前らは散々子作りに精を出しているけどなヴァンパイアども!寝れないんだよ!


「だろ。いい加減復活したい」

「なら触手が治ったら早いとこ図書館を目指そう!」


 そんなに繁殖したいのかよエウロパ。と思ったら触手のキレたとこをグリグリされた。痛いからやめろよ。ひとまず傷に効く湯に浸かることにするか、エウロパのせいで痛いし。

 温泉に浸かっているうちに、触手の再生芽が生えてきた。


 全く、俺はなにをしているんだろうか?


 人間のメスとまぐあわせられそうになったり、クラーケンと戦ったりエルフの森を焼かれそうになったり、そして温泉でフェニックスとケンカして触手吹き飛ばしたり……気がついたら人間だのバイコーンだの吸血鬼だのが仲間になってるし。


 どうせなら触手なんだから触手とつるみたい。そしてかわいい触手と組んず解れつしたいまぐわいたい繁殖したい。もうな、人間のメスとか嫌なんだよ!なんか胴体の一部膨れてるし、そう、こんな風に。


「ってなんで触手いるんだよ!」

「それはこっちのセリフだエウロパ!ここ男湯だろ!?」

「違うわね。強いて言うなら混浴ね」

「えっ?」

「傷の治療のとこここだけだから混浴みたいね」


 マジかよファブリー、勘弁してくれ。中身はともかく見た目はすごく萎えるから人間とか。そそくさと出ることにする。オスはまだしもメスは触手も生えてないしな人間。メスにも触手が生えてたらいいのに、あ、でもそれはそれでまずいか。


「全くおちおち湯にも浸かれない」


 ぶつくさ言いながら風呂から出る。仕方ないからメス達が出るまで何かして時間でも潰すか。テーブルに網が張ってある。なんだこれ?


「ブレン、これ何か知ってるか?」

「いや、知らないが」

「テーブルボールですよ」


 おう、宿の店主が来たな。


「テーブルボール?なんだそれ?」

「はるか昔温泉で遊ばれてた遊びだそうです。この板で球を打ち返します」


 店主によると、中空の木の球を木の板で打ち合う遊びだそうだ。暇つぶしにはなるか。店主に遊び方を聞くことにする。早速ブレンと店主が打ち合うが、あっという間にブレンが負けてしまった。なんでそんなつよいんだよ。


「くっ、強い!」

「まだまだですね」

「どれ、妾もやってみるか」


 そう言い店主に挑む始祖だが、なんとこれも討ち取られた。なんなのこの店主、バケモノなの?風呂から出たエウロパとファブリーも挑戦したが勝てない。


「なんなのこの店主強すぎるよ!」

「全くじゃ!?妾が目で追えないっておかしいじゃろ」

「この流れ、俺もやるの?」

「やってよ触手!この店主コテンパンにしてよ!」


 もう目的見失ってるなエウロパ。しかしまともにやっても勝てそうにない。


「店主」

「なんですか?あなたも挑戦ですか?」

「板は1つだけか?」

「1つですよそれは」


 複数の板なら弾き返せると思ったんだがな。しかしこれだけのメンツ相手によくやる、店主。


「まぁいい、やってみるか」


 店主がすごい球打ってくる。触手を伸ばして弾き返す。また返してきた。こっちも負けてられるか!


「おっ!?」

「いけるか?」

「あっ……」


 お前ら騒ぐからミスっただろ!静かにしてくれ!一進一退の攻防は続く。さしもの店主も、触手伸ばしの防御には苦戦しているようだな。こちらも変幻自在の店主の攻撃には苦戦しているが。


 そんなことを繰り返しているとだ。


「あんた!またお客さん相手に遊んでるのかい!とっとと仕事しな!」

「お、おう……」


 おかみさんに店主が捕まって引き分けと相成った。次は必ず勝つぞ。ところで俺たちは一体何をしていたんだろう……。

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