第33話 触手だからって交渉ができないと思うなよ
兵士と一緒に戦い、紫の液体の侵攻を遅らせる方法があることを伝えた結果、俺たちは王城に案内された。ひとまず第一段階はクリアだ。
「むしろここからが問題だよね」
「そうだな」
「えっ?そうなのか?……エウロパはともかく触手までそう考えてるのはなんでだ」
「ブレン、考えてみてくれ。今王国の戦力は壊滅的なんだよな」
「そうだよ。確かに触手の細胞には一定の効果はあったよ。でもそれに賭けるっていう判断を王国ができるかは別問題だよ」
「……言われてみると納得はできるけど、触手より頭が悪い自分に納得がいかない」
そういうなブレン。お前の強みは知能じゃなくその身体能力なんだから。考えるのはエウロパに任せてお前は大暴れしろ。それがお前の役割なんだから。
「そういうけど、ヒマさえあれば本読んでるような触手が頭悪いとは思えないよぼく」
「そこまで言われると逆に待ってくれと思うけどな」
「確かにエルフに捕まってた時とかずっと本読んでたよな」
いいじゃないか本くらい読ませろ。とにかく案内された王城の一室で、しばらく待つことになった。……遅いな。
「遅いのう……流石に待ちくたびれたわ」
「ですね。人間どもはなにをやっているのか」
ヴァンパイアたちがイライラしている。よくない兆候だ。
「ちょっと遅すぎるわね。お茶くらい出してほしいわ」
「ぼくもお茶飲みたい」
みんな好き勝手言っているな。とはいえいくらなんでも待たせすぎだ。
「
「むしろお前が行けよ
「俺が王城うろついたら攻撃されそうだが」
「行きたくないからって押し付け合うのやめなよ」
そんなことエウロパに言われてしまう。んじゃ仕方ない。俺がちょっと行ってきてやるよ。全くなんで俺が行くことになるんだよ。
ブツブツ文句を言いつつも言伝だけはすることにする。仕事はこなさないとな。
さて、単に言伝してもブッチされる可能性も否定できない。こういう状況だからな。こっちとしては何にせよ、ボーッと待っているという状況だけは何とか避けたい。となるとだ、状況を動かすしかないだろう。
触手を伸ばして人間が多そうな場所を探す。廊下にはあまり人が見あたらない。触手がうろついているのにスルーされてるってのもどうなんだよ。……攻撃されても困るけどな。しばらくあちこち触手を伸ばすと、人間たちが揉めている場所がわかった。行ってみるか。
部屋の前にやってきて、中に触手を伸ばすとする。果たして部屋の中では喧々諤々の状況であった。うるせぇ。
兵士たちやその上の連中は、口々に触手細胞使って一気に奪還しようという意見を出している。大臣とか官僚とかいうのか?そういう連中の方は本当にそんなことが可能なのかとか、そもそも可能性として特に効果があるとしても量は足りるのかとかいう。
それぞれの意見はそれぞれの意見でそれなりには正当性があるんだろう。そこはわかる。しかしな。俺に言わせると、そんなものより大事なことを忘れていないかお前ら。触手でドアをいきなり開ける。鍵がかかっていたようだが触手で内側から開けた。
「おい」
「うわっ!?」
「な!?触手がどうして!?」
会議していた連中は、突然俺が出現したことに驚きをかくせないようだ。しかしな、俺だって言いたかないんだよ。でも言わないといかんことがある。
「あのな」
「何だ!今重要な作戦会議中だぞ!」
「そんなもんよりもっと重要なことがあるだろうが」
「重要なこと?」
そうだよ重要なことだよ。わかってんのかお前ら。
「その作戦の重要な要素の俺たちなんですけどね、数時間待たされてんだけどどういうことよ?」
「えっ」
「よもや忘れてたとか言わないよなぁ?あ?」
「えっと……」
「おい、それダメだろ……」
兵士たちも官僚たちも茫然としている。色々とこう見失っているんだろうな。仕方がないとは思うが、それはそれとして俺たちに対する扱いはちょっと改善してほしい。
「せめて待ってんだからお茶とかでも出せよ。これ以上長くなるなら更に要求を引き上げるぞ」
「よ、要求を引き上げる?」
「そうだよ、食事くらい出したっていいだろうが」
「あ、そういうことですか……」
官僚の何人かが部下に命令をするようだ。これでひとまず最低限の扱いはしてくれるだろう。
「しかし何故触手のあなたが?」
「ブレンに言われてな。あまりに待たされて待ちくたびれてるんだよ」
「はぁ」
さて、お茶や飯くらいは用意してもらえた。問題はここからである。お茶や飯とは比にならないシロモノだぞ。
「あとあの液体への対決をするための戦力も用意してくれるんだよな?」
「そうですね……ってそれは急には決められないでしょうが!」
「確かに急には決められないとは思うが、このままだとこの世界があの液体に覆われかねないだろう」
「確かにな。触手よ、そちらの意見は?」
口の周りの毛がもの凄い、兵士の長のようなやつが俺に意見を求めている。
「俺としての意見は、ベストのタイミングは見極める必要があるが、攻撃自体はすべきだと思う」
「やはりか」
「そのためには俺だけでは力が足りない……あまりに、あれは巨大だ」
「なるほど」
「ふん。あのようなものがいつまでも広がっていくだと?そんなことがあるかわからないだろうが」
厄介なヤツが出てきたな。そりゃ意見が皆同じだったら気持ち悪いけど、楽観的すぎるだろその意見は。流石に俺も兵士の長もイラっとした。
「もしそうならなかったら?」
「逆の場合はどうなる?さらに戦力をこれ以上喪うことはこの国の存続に関わることになるぞ」
それはまぁそうだが、このまま広がって行くと国どころか世界がマズい。
「広がって行くかどうかわからん、とでも?今広がってるだろうが。現実を見ろよ」
「どっちになるかわからんだろうが。その程度の知恵しか無いとは所詮触手か」
所詮触手とか言われてしまった。何だろこいつ腹立つな。
「とにかくこれ以上戦力は出せない。将軍もわかっているだろう」
「わかってないのはそちらだろうが。戦力を出さないで国が滅んだら元も子もない」
めんどくさいなこいつ。俺は将軍に小声で話してみる。
「こいつ何がしたいんだよ」
「俺にもわからん」
あ、この将軍体育会系だわ。交渉とか向いてなさそう。こうなるとこいつを説得する何かを提示できないと話進まんな。
「おいおっさん」
「誰がおっさんだ!私は!」
「おっさんなんでそんなに兵隊出したく無いんだよ。液体に呑み込まれたい変態なのか?」
「へ、変態だとぉ!?」
ヒゲの将軍がちょっと噴き出しそうになったが我慢しているな。でも実際こいつは何でやりたく無いんだ?
「変態でないならタイミングはさておき戦力を出すしかないだろうが」
「私は変態ではない!」
「なら戦力の投入のタイミングをだな!」
「戦力の投入はする!するが、タイミングは考えさせてもらう!」
少し状況が改善したようだな。小声で触手めやりおると将軍が言っているのを俺は聞いた。
「んで。そのタイミングってどう決めるんだよ」
「それは……」
「レナードが今細胞の培養してるんだからタイミング喪うと効果を発揮できないぞ」
「……おい、今何と」
「細胞の培養してるんだからタイミングを」
「その前だ!」
「レナード」
「レナード!?あの大賢者の名前ではないか!」
これは……こいつの興味を引きつけられたな。レナードの名前が出た途端だ。
「あんた、レナードを知っているのか」
「知っている。……神に近い身体を持ち数千年を生きる存在だと」
「そのレナードがいま細胞の培養してるんだからどうにかなるだろ」
「……わかった、国王に進言しよう」
よし。上手く交渉が行ったようだ。こいつがキチンと国王に進言してくれたら、戦力かき集め作戦も成功するんじゃないだらうか。
満足して部屋に戻った俺だが、メシは既にブレンたちが食い尽くした後だった。何食ってんだよ俺が戻る前に。俺は少し泣いた。そのあとメシは持ってきてもらえた。
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