この作品の中に、いつも自分が、その場にいるような錯覚さえおこさせる。
そして、登場人物と同じように自分とは? と、考えてゆく。
描写が、とてもシンプルに頭の中に想像される。
自分は、50代で人生の半分以上を生きていますが、そんな自身でさえ
今、一度 自分とは? 何をなすべき存在であるのか、そんな大した事は
出来なくても何を成すべきだったのかを、考えるとてもいい内容でした。
今から、もう一度、夢を形にしようと考えていた時でしたから、
本当に、勇気と言うのか希望の後押しを、してくれる作品でしたので、
これを、描いた作家さんには、ありがとうと伝えたいです。
舞台女優と芸術家の一か月間の夢の中。
自分が演じるキャラクターを探しにとアパルトマンというアパートで一か月間生活する舞花。
個性的な格好で芸術家を演じる、大家の息子かける。
表現の分野で苦悩する二人は、どこか似ていると親近感を抱く。
最初から決められていた期間。限定の関係性の中で、二人は改めて自分の進みたい道筋を探す。
1人では見つからなかったものを、2人で、もしくはもっとたくさんで見つけた時。
それはある意味夢の終わり。
アパルトマンで見た、夢の終わり。
夢からはいずれ覚めないと。
2人が進んでいくのは、それぞれの待ち受けている現実の道
ううん。違う。
ずっと思い描いていた新しい夢にまた飛び出した。
夢は消えずに、続いていく。
とても優しい文体で、登場人物が描かれている物語です。
しかし登場人物の心情を丁寧に書いているというのであれば、珍しくはあっても希有ではありません。
この物語が希有なのは、登場人物の心情だけでなく、登場人物を中心にした風景も描いている点にあると感じます。
読み進めていけば物語に引き込まれ、私がそこで見る風景は現実宛らでした。
音楽が聞こえ、適当なSEがあるドラマや映画の中に入ったのではなく、現実の街、山、サーカス小屋でした。
生活音、人の声、またメインとなるアパルトマンでは部屋を通り抜けるであろう風まで感じ取る事ができたような気がします。
だからこそ、この物語にある描写は、丁寧ではなく、優しいのだと私は思います。
登場人物にも、根底にあるのは優しさ、誠実さであると強く感じます。
仕事に行き詰まったという女優も、何らかの事情でフランスから帰ってきたという絵描きも、アパルトマンのオーナー…皆、人間らしい優しさを持ち、他者に対して誠実であろうとしています。
人の善意よりも悪意が、幸せよりも不幸が目立ってしまう今だからこそ、読みたい、紹介したい物語です。
与えられた役が上手く演じられない主人公。
それまでは、何なくこなせていたのだろうものが壁にぶち当たったことで、監督から言い渡された「キミカ」を探すための1ヶ月の休暇。
「当たり前にあったもの」を取り払い、「何もない」状況に置かれたことで、今まで見えていたもの以上のものが見えてくる事で得るものは多々ある。
「視野を広げる」と言う事はそう言う事なんだと、一度初心に返り自分を見つめ直すことで新たに得るものがあるとはこう言う事なんだと、非常にためになる物語。
他薦によって、この作品に巡り会えた事に感謝します。
一度今ある物を取り払い、一から出直してもう一度自分を見つめ直したいと思います。
夢を見る事に前向きになれる、そんな作品です。
一人の女優である主人公が、キミカを探すために舞台監督から一か月の休暇を貰う。指定されたアパルトマンで、暮らし始めた主人公の周りには、才能あふれる人々が集まっていた。絵描きのかける。ギター弾きのオーナー。そして、主人公はスーパーの店員の男性に惹かれていく。女優の生活を続けていたら、きっと目に留まらなかった世界。
そこで主人公が見つけたものとは――?
そして、主人公は無事にキミカを舞台に連れてくることができるのか?
私たちはまだ、夢を見ることを許されている。それがどれだけ尊く、恵まれていることなのかが、身にしみてわかる一作。そして何より、夢を向いて歩くことの大切さが詰まっている。夢を追う人に、是非読んでほしいと思った。
大丈夫、一人の時間が芸術家にとって必要なものでも、私たちは繋がっている。何故なら、「吹く風は同じ」なのだから。
カクヨムのカク人必読の作品。
是非、ご一読ください。
読み終えたとき、骨のあるアーティスティックなインディーズ映画を一本見終えたような気分になりました。舞台は現代日本なのでしょうが、読者はどこか知らない場所に連れて行かれたかのような独特な空気感を味わいます。それはタイトルや丘の上のアパルトマンという舞台設定以上に、さり気ないようで実はおそらく考え抜かれている人物造形とストーリー構成によるものでしょう。
変わり者たちの偶然の遭遇にしか見えなかった、期間限定の緩い関係性。しかし、最後にはそれが何か大いなる力によって引き合わされた結果に思えてきます。何気ない一言やちょっとしたアイテムの全てが見事に一本の糸のようにつながっていく様、そして各人の日常がその先に見えてくるようなエンディングは見事と言うほかありません。
苦悩と内省。出会いと気付き。選択肢と迷い。「バカンス」という名の彼らの一ヶ月を目撃した私たちもまた、新たな一歩へといつの間にか背中を押されています。何者かになりたいあなたや、何かを生み出したい君に、きっと響く物語。