物書きの卵たちは、きっとこの物語に恋をする

読み終えたとき、骨のあるアーティスティックなインディーズ映画を一本見終えたような気分になりました。舞台は現代日本なのでしょうが、読者はどこか知らない場所に連れて行かれたかのような独特な空気感を味わいます。それはタイトルや丘の上のアパルトマンという舞台設定以上に、さり気ないようで実はおそらく考え抜かれている人物造形とストーリー構成によるものでしょう。

変わり者たちの偶然の遭遇にしか見えなかった、期間限定の緩い関係性。しかし、最後にはそれが何か大いなる力によって引き合わされた結果に思えてきます。何気ない一言やちょっとしたアイテムの全てが見事に一本の糸のようにつながっていく様、そして各人の日常がその先に見えてくるようなエンディングは見事と言うほかありません。

苦悩と内省。出会いと気付き。選択肢と迷い。「バカンス」という名の彼らの一ヶ月を目撃した私たちもまた、新たな一歩へといつの間にか背中を押されています。何者かになりたいあなたや、何かを生み出したい君に、きっと響く物語。

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