第9話

「なんてことだ。」

 思わず声が出てしまった。何故なら私が目にしているこの光景。ある程度予想していたとはいえ、まさか実際に起きてしまうとは・・・先程まで、あれだけ賑わっていたキャンプ場は静けさを取り戻し、キャンピングカーのヘッドライト以外の灯りはすべて消えていた。そしてその近くの川縁には、すでに息の無い骸が数体、あちらこちらに転がっている。

 やられた・・・

 私は注意深く辺りを見渡す。生き残りは何人いる?ナノハは無事か?亡骸の数は三体。ということは、半数以上は生きていることになる。まあもしかしたら別の場所で何人か殺されているかも知れないが・・・

 ん?大学生達が乗ってきた二台の車が見当たらないぞ?・・・逃げたか。しかし、それは懸命な判断だろう。このままこれからの時間帯、ここにいてはそれこそ命の保証はない。残っているのはキャンピングカー二台。そのどちらもヘッドライトが煌々と光り、遠くを照らしている。中からは人の気配もする。おそらく乗ってきた家族達がいるのだろう。ナノハもあの中か。私は注意深くキャンピングカーに近づき、窓から中を覗く。中では家族四人、父、母、兄、妹が身を寄せあって座っていた。余程のことがあったのだろう。妹の目からは未だ涙が流れ続けていた。続いて私は、ナノハが乗っているであろう隣のキャンピングカーへと向かう。そして中を覗こうとした、その時だった。いなくなっていた二台の車が道の左右から戻ってきたのだ。何あったな?

「駄目だ!こっちの道は倒木で道が塞がれてる!」

「こっちもだ!もう車では大通りまで行くのは無理だぞ!」

 一台から三人、もう一台のから二人車から降りてきて、お互いの情報を言い交わす。なるほど、どうやらこのキャンプ場は陸の孤島となったわけだ。しかし、完璧に隔離されたわけではない。この林を三キロ程行けば大通り、或いは民家のあるところまで辿り着けるであろうが・・・この時間帯だ。容易にいかないだろう。それに、がそれを許すはずがない。

「どうでした?」

 ナノハが乗っているであろうキャンピングカーのドアが開き、男が降りてきて大学生達に声をかけた。ナノハの父親だ。

「駄目でした。取り敢えず今晩はここで夜を明かすしか・・・」

 もうそれしか方法がない。悔しそうに、半ば諦めの表情で話す大学生の男。

「そうですか。それでは仕方無いですね。では各々用心をしましょう。あのに殺られないように気を付けて下さい。」

 !!

 な・・・に?

「はい、お互い頑張りましょう。おい、みんな!絶対一人になるなよ!」

 大学生グループのリーダー格的な男が声をあげる。そしてそれに呼応し、他のメンバー達は意を決した表情で深く頷き、自分達の張った二つのテントの中へ入っていく。二人、三人の割り振りだ。ナノハの父親も自分のキャンピングカーに入り、ヘッドライトを消す。それに従い、もう一台のキャンピングカーのライトも消えた。辺りは暗闇に包まれ、川の水の流れる音が一際大きくこの空間に反響する。このまま何事もなく時間が過ぎてくれればいいのだが、そうはいかないだろう。

 それにしても・・・まさか私がにされているとは・・・

 

 

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