第17話

 次の目的地、キャンプ場に着いた。

 早く・・・探さないと・・・

 木陰から顔を出し、辺りを見渡すと・・・あった。丁寧に並べられた3つの遺体が。生きている人間達のすぐ近くに。しかし、それを気にしている場合ではない。私は遺体に向かい歩き出す。

「うわぁ!また出たぁ!」

 早速気付いた人間の女が声を上げる。

 ふぅ、いい恐怖だが、今はしっかり味わっている場合ではない。警戒する人間達を他所に、私は亡骸達の前までいく。そして、予め私の中で三当分にしておいた悪霊を口から放出し、それぞれの死体の中に無理矢理流し込む。

 ドクンッ

 ドクンッ

 ドクンッ

 コウタ同様、三体とも海老反り返り、肉体を強制的に復活させた悪霊。ここからが正念場だ。かなりリスクのある方法だったが、仕方がなかった。一体ずつでは時間がかかりすぎるのだ。奴が力をフルに発揮できる時間帯でなくては、死んだ肉体を蘇生させるなんていう力業はおそらく出来ないだろう。

 蘇った彼らはムクッと起き上がり、そのまま我先にと私に襲いかかってくる。一対一でもきついのに、三対一での真っ向勝負で勝てるわけがない。しかし、こうなることも見越して私は手を打っていた。何故私がご丁寧に数時間前キャンプ客達の前に姿を現したのか。恐怖を得るため?それもある。だが、それだけではない。私は逃げる振りをしてある位置に奴等を誘い込む。そこは、私が突然姿を現し、彼らを恐怖させたあの立ち位置だ。何もただ演出の為だけに自然エネルギーを増幅させ電灯を破壊した訳ではないのだ。

 私に追い付いつく寸前に、奴等の動きが鈍り始める。それはそうだろう。この一帯は自然エネルギーの濃度が高いのだ。当然私も辛いが、この毒には私自身のエネルギーも混ざっている為、彼等ほどではない。

 よし・・・

 私は一人の頭を掴み、大量の毒を流し込む。当然苦しがる悪霊。たまらず肉体から逃げ出していく。そこにすかさず身体の持ち主の魂を捩じ込む。まず一人目。続いてノロノロと攻撃してきた二体目の腕を掴み毒を流す。苦しみの声を上げ、飛び出していく悪霊。それを見届けた後、この肉体にも本人の魂を押し入れる。これで二人目。あっという間にやられてしまった二人の自分を見て、たじろぐ最後の一体。その隙を私は見逃さない。奴の胸ぐらを掴み引き寄せる。

「これで終わりだ・・・」

 私は奴の耳元でそう囁くと、そのまま毒を注入した。

「ぐぎっ!ふっ、ふざけるなぁぁ!儂がこんなところで!消えてたまるかぁ!!」

 そう言いながらも、毒による苦しみに抗いきれず出ていく悪霊。そして、この肉体にも間髪いれず本人の魂を押し込む。

 よし、これで・・・

 三体目の靄は、ふわふわと漂っていた二つの黒い靄と再び一つになり、他の人間を目指して動き出す。まあそうくるだろうな。しかし・・・

 まだ気付いていないようだな。お前はもう終わっているのだ。

 パチンッ

 指を鳴らす。

 そしてそれが合図となり、黒い靄は私に引き寄せられる。奥の手の能力、『マーキング』と『引力操作』を使ったのだ。対象者に見えない刻印を付け、私と結びつける。そして、物と物に発生する引力を操る能力で私に向かわせたのだ。疑問に思っただろう。何故こんな便利な能力を、今まで使わなかったのか。それは、どちらも接近戦を前提とする能力であり、そしてあくまでも私と対象者の間でだけ効果を発揮できる能力だからだ。まず、マーキングするには対象者に近づき、私のエネルギーを流し続けなければならない。そして対象者に引力操作を使ったとしても、引き寄せるだけで引き離すことはできない。今の脆弱な私では、好んで対象者を接近させるというリスクは負えないのだ。しかし物は使い用。今回は私の身体の中で、少しの間奴を閉じ込めることができた。つまり簡単にマーキング出来たのだ。そしてこいつは肉体さえ持たなければ攻撃できない、ただのエネルギー体だ。従って、この黒い靄の状態であれば私にとってのリスクは極端に少なかったのだ。

 さぁて、最後の締めを始めようか。

 私は再び奴を吸い込み、体内に幽閉する。但し、今回はこれで終わりではない。奴を包んでいる自然エネルギーを更に増やし圧縮させた。奴が苦しがり、縮小していくのがわかる。正直、私もきついのだが・・・


 まだだ・・・後少し・・・もってくれ、私の身体・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・プツンッ

 ウギャャャャャ!

 私の身体の中で、奴の断末魔の悲鳴が響き渡った。

 ・・・奴を・・・倒したのだ。

 しかし・・・

 ドォォン!

 凄まじい破裂音。奴を毒で押し潰し消滅させることは出来たが、体内に余ったエネルギーは制御を失い破裂してしまった。・・・

 私の首から上は宙を舞い、川に入り、沈んでいく。一瞬見えたキャンプ客達の顔は、恐怖に怯えていると言うよりも何が起きていたのか分からないといった、呆気にとられているものだった。

 もうほぼエネルギーはスッカラカンだが、私は最後の力を振り絞り、影移動を使った。

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