第16話
悪霊がタクミの身体から出ていく。なるほど、これがこいつの実の姿か。黒い霧のような、靄のような、実態の無い存在。普通の人間では肉眼で確認できないだろう。
完全にタクミの身体から出きった悪霊。私はすかさず自然エネルギーでタクミの身体を治癒すると、頭まで土で覆い隠す。奴が再び入れないようにするためだ。悪霊は次の依り代を求めて、空中を漂う。リキヤか女か、どちらかに憑くつもりだろう。案の定、奴は二人目掛けて流れるように動いていく。しかし・・・
「リキヤ君、危ない!」
?
女は声を上げるが、大丈夫だ。
闇の塊は、何か見えない壁に遮られるように弾かれる。私は仕掛けていたのだ。こうなることを見越して、自然エネルギーの膜を二人に纏わせていた。悪霊は宛が無くなり、またしても漂うことになる。さぁどうする?このままでは霧散してしまうぞ?
黒い靄はコウタの身体を目指す。そう、それしかないだろう。それでいいのだ。渋々とコウタの身体に入っていく悪霊。狙い通りだ。これで奴はコウタを操るために、全身の固まった血液を融解し、心臓を動かし、肉体を復活せざるを得なくなった。これで後は・・・
暫しの沈黙の後・・・
ドクンッ
海老ぞり反るコウタの身体。
きた!
コウタの肉体はたった今、蘇ったのだ。この瞬間を待っていた。私は周りを見渡す。そこには・・・思った通り。肉体の機能をすべて取り戻した自分の身体へ引き寄せられるように、コウタの散り散りになった魂が集まってきた。
私はコウタに近づいていく。奴はそれに気が付くと、やはり襲いかかってきた。奴の拳をまともに顔面に喰らう私。続けざまに何度も攻撃してくる。私は避けきれず、すべての攻撃を受けてしまう。ちなみに言うと、私は痛みというものを感じない。なので、殴られても顔色一つ変えずにいることができるのだが、悠長にダメージを受け過ぎてしまうと、私を象っているエネルギーが削られていってしまうのだ。だから接近戦はしたくなかった。しかし、私がやろうとしていることは、接近しなければできないことなのだ・・・
度重なる攻撃を何度も受け、私は何とか、それこそ死に物狂いでコウタの肩を掴んだ。
よし、今だ!
一気に大量の自然エネルギーをコウタの身体の中に流し込む。
「貴様!何を・・・うぎゃぁ!!」
苦しがる悪霊。当然だろう。我々にとってこれは・・・おっと、そう言えばこの自然エネルギーを操る力の正式名称を言っていなかったな。
『毒操作』
これがこの力の名前だ。元々自然エネルギーは生の力。それに引き換え、我々化け物は負の存在。わかるだろう?相反する力関係だということが。すなわち、私は今まで自分にとっての毒を操っていたのだ。
さあ、出ていけ!
奴はたまらずコウタの身体から抜け出す。そしてそれを見計らい、私はすかさずコウタ本人の魂をその身体に捩じ込んだ。魂と身体が結び付き、その途端コウタは気を失ってしまう。まあそうだろう。これだけ時間が開いてしまっていては、馴染むまでに多少の時間が必要になるからな。
さて・・・
私は黒い霧を毒で覆い包む。このまま消滅させることもできるのだが、こいつにはまだ働いてもらわないといけない。私は口を大きく開くと、毒ごと悪霊を吸い込む。
ぐぅ・・・
かなりきついな・・・
だが致し方あるまい。まだやることが残っているのだ。私は人間二人の目線を避けるため、木陰へよろよろと足を運ぶ。
「待って!」
何故か私を呼び止める女の声が聞こえたが、今の私にはそれに応える余裕はない。
やっとの思いで木陰に辿り着くと、影移動を使い、次の目的地へと向かう。
持ってくれ・・・私の身体・・・
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