第15話
リキヤと女は動かない。いや、動けない。それだけの衝撃だったのだろう。恐怖が滲み出ている。私は左右にゆらゆらと揺れ、この状況を楽しんでいるように見せた。
どれどれ・・・
私が動こうとしたその時だった。タクミは、こともあろうか担いでいたサトルを私目掛けて投げつけてきたのだ。
「ぐふぅ!」
まともにくらい、派手に後ろに転がる私。かわすことは容易に出来たのだか、それをしてしまうと、サトルが木に直撃し、絶命してしまう恐れがあった。
私が言うのも何だが、なんて非人道的な奴だ。タクミは一気に距離を詰めてくる。肉弾戦では私に勝てる余地はない。接近戦を避けるため、私は体重操作を使い上空へ舞い上がる。そしてそのまま大木の枝へと着地し、奴を見下ろす。
「降りてこい!八つ裂きにしてやる!」
ガンガンと拳で私のいる大木を攻撃するタクミ。憑りついた人間のことなど、どうでもいいのだろう。皮はめくれ、肉は削れ、骨は砕けている。痛覚のある人間ならば、耐え難い痛みだ。
タクミの、その目に余る程の豹変振りに、目を丸くし、驚愕する二人の人間。
「お、おい。どうしちまったんだよ・・・タクミ・・・」
恐る恐る聞くリキヤだったが・・・
「うるさい!あのピエロの後はお前らだ!そこでガタガタ震えてろ!」
と、めんどくさそうに言い捨てられてしまう。
こいつはタクミじゃない。いや、人間じゃない。二人は目の前にいる、このタクミの形をした何かを、ただただ見ていることしかできなかった。そんな奴の様子を見て、私はほくそ笑む
焦っているな・・・
おそらくだが、奴は一人の体にそれほど長く取り憑いていられないのだろう。今までもそうだ。依り代が壊れたわけでもないのに、すぐに他の体に移っていた。ならば・・・
私は大木に自然エネルギーを集め、そのすべての枝を操る。大小の枝達は、うねうねと伸びたり縮んだりしながら奴に向かっていく。
「うわぁ!なんだありゃ!」
驚きの声を上げたのはリキヤだった。安心しろ。君には何の害も無い。
絡んでくる枝を必死にかわしたり払い除けたりしていた奴だったが、次々と襲いくる枝の猛攻に抗えきれず、ついには捕らえられてしまう。両腕、両足をガッチリと封じられたタクミ。だが、まだ安心できない。
私は木からに降り、半径3m程の地面に私自身のエネルギーを流し込み、自然エネルギーを増幅させる。これは力をかなり消耗するのだが仕方あるまい。私の意思で操作された地面はうねり、隆起すると、手足の自由の利かないタクミの全身を顔だけ残し包み込む。これで完全に動きを封じ込めただろう。
私は奴に近づき、その時を待つ。ほとんど身体を動かせない『奴』は、目だけを動かし、視線に私をとらえる。
「何で儂の邪魔をする。お前も私と同じ化け物だろう。何故人間の味方をする。」
奴は私に向けて言葉を投げ掛けてきた。別に、味方をしているつもりはないのだが。結果的にそうなってしまっているだけなのだ。
「私は自分のためにやっているだけだ。貴様こそ、一体何なんだ?何のために人間達を殺している?」
こいつの存在を知ってから、ずっと気になっていたことだ。こいつだって人間のエネルギーを喰らう輩だ。ならば人間の減少は好ましくないはずなのに何故・・・
「儂か?儂は、人間の悪意の塊だ。・・・わかるか?だから殺すのだ。人間達は責任を取らなければならない。儂という存在を作ったことに対する責任を。」
更に奴は続ける。
「奴等を殺して何が悪い。人間などいくらでもいるぞ。それに奴等は、戦争だとか革命だとか銘打って、お互い殺しあってるではないか。どれだけ脳が発達しても、自らを滅ぼす武器を生み出し続けるのが人間だ。そんな生き物、守る価値などあるものか!」
ふん、何とでもほざくがいい。だがまあ、確かにこいつの言うことには一理ある。しかし、そんなグローバルなことを言われても困るのだ。私はただ、目の前にある餌を生かしているだけに過ぎないのだから。
・・・それにしても、こんな厄介な奴がいるとはな。
こいつは、封印されていた魔物でも、餌を求めてここにやって来た化け物でもない。たまたまここに発生した悪霊なのだ。これ以上、力と知恵をつける前に今ここで何とかするしかない。
だがその前に・・・そろそろか・・・
「言いたいことは済んだか?貴様はここで終わりだ。」
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