第14話
急ぎたい私の意思に反して、先程よりもペースが上がらない。それもその筈、休憩が多いのだ。さすがに意識の無い、大の男を担いで歩くとなると、体力の消耗が激しいのだろう。50m毎に休んでいる。
もう出発してから二時間以上経つ。後一~二時間で夜が明けてしまうぞ。まだ目的地まで200m程あるというのに。これではギリギリ間に合うかどうかだ。
ここで女が思わぬ、というか当たり前の提案をしてくる。
「あのさ、リキヤ君とタクミ君二人で交代交代サトル君運べば楽なんじゃないかな。ねっエミちゃん。」
ハッとするリーダー格の男、リキヤ。まったくその通りだった。だが、私はあまりいい顔をしない。何故なら、それくらいのことはリキヤ以外気付いていると思っていたからだ。なのにタクミという男は何もしなかった。つまり、こいつが怪しいのだ。でもここで奴が本性を現し、対峙することになっては意味がない。
どう動く?
「そうだよな。ごめん、リキヤ。一人に負担かけちまって。俺にもサトル背負わせてくれ。」
そうきたか。これでもうどっちが奴かわからなくなってきたぞ。
頭を抱えてしまった私だが、タクミのとった行動で悩みが解消されてしまった。あろうことか、タクミはサトルをひょいっと片手でお越し、軽々と肩で担いでしまったのだ。
「わぁ、すご~い。タクミくんって見かけによらず力持ちなんだね。」
身長160cm程の痩せ男が、170cm越えの筋肉質な男をこうも易々と持ち上げてしまっては、誰の目から見ても常人でないことは明らかだった。
うむ、しかしこれで奴について2つのことを確信することができた。1つ、奴は憑いた人間の身体能力を、潜在している部分も含めて、限界まで引き出すことができるのだ。でなくては、これまで襲ってきた人間を、ああも一方的に手にかけることはできないだろう。そしてもう1つ、奴は日の高い時には力を発揮できないのだ。だからあの時間帯、あのカヤという女に憑いた時には逆にやられてしまったのだろう。でなければ説明がつかない。
ん?
ということはつまり、あの時奴自身もその事に気付いていなかったのではないか。もしそうなら、奴はまだ自分の力を把握しきれていない、誕生したばかり悪霊である可能性が高い。
何であれ、奴の能力は私の計画には必要不可欠だった。・・・利用させてもらうぞ。
タクミが運ぶようになってから、かなりスムーズに進めるようになった。途中途中リキヤが代わってくれと気を使っていたが、私はそれを阻止してきた。タクミも代わる気はない。この時ばかりは私と奴は利害が一致していたのだ。それは、『夜が明ける前に済ませる』ということ。
目的地まで後数メートルのところまで辿り着いた。
「ちょっと休憩しない?タクミ君も少し休んだ方がいいよ。」
私はここで皆の足を止めた。そしてリキヤと女の肩をポンポンと軽く叩く。
?
二人とも何で肩を叩かれたのか、自分達が何をされたか、わかっていないといった面持ちだ。まあ、わかるはずもないのだが。
立ったまま休んでいる彼らをよそに、私は無言で歩を進め、三人の1m先で背を向けたままピタリと立ち止まる。
「みんな、ありがとう。あたしの為にここまで来てくれて。」
きょとんとする三人。
「エミ、何いってんだよ。コウタを助けに来たんだろ。」
私は三人の方に向き返り、順番に指を指しながら、からかうように数を数え始める。
「生きてる人間がひと~り。生きてる人間がふた~り。生きてる人間がさ~んにん。」
そして、私の背中で隠していたコウタに指を指し・・・
「死んでる人間がひと~り。」
「なっ!!」
先程まで生きていると信じていた男の亡骸を目の当たりにし、驚きの声を上げるリキヤ。女も口に手を当て、カタカタと震えている。奴に至っては、わなわなと身体を震わせ、騙されたことに対しての怒りを露にしている。
くくくっ。滑稽だな。
私はその場でくるくると回転し風を巻き起こすと、ピエロの姿に早変わりした。いよいよクライマックスだ。
「さあ、一緒に遊ぼう!」
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