第13話

 私は彼等を引き連れ、林を進んでいく。しかし、皆辺りを警戒しながら慎重に足を運んでいる為、もう三十分以上経っているのにも関わらず、まだ三百メートル程度しか進んでいない。特に奴は、私のことを意識しているのだろう。木の上や地面、木陰に至るまで周囲の気配を探っている。灯台もと暗し。私はすぐ側にいるのだがな。

 しかし・・・このままでは目的地に辿り着くまで何時間かかることか。これでは夜が明けてしまうぞ。この時期の日の出は、あと四時間後といったところか。さすがに白日の中、この模写で騙し続けられる自信はない。

 だが、そんな焦る私を尻目に、一人の女がモゾモゾとしだし、私の肩をちょんちょんとつついてくる。

「あの・・・エミちゃん。ちょっと・・・付き合ってくれないかな。」

 ん?

 ああ、そういうことか。

 仕方ない、この中で雌といえばこの女と私だけだからな。付き合ってやるしかないか。一先ず男達をその場で休ませ、私達は少し離れた木陰まで行く。そして辺りを注意深く確認し、女に用を足させる。もちろん、その間も警戒を怠らない。奴は、私が模写しているこの女のことも狙っているかもしれないのだ。まあ、来たら返り討ちにしてやるつもりだが、なるべくならまだ奴を生かしておきたい。その為にわざわざ奴を連れて林の中を歩いているのだから。

「ごめんね。さ、みんなのところに戻ろ。」

 後ろから声をかけてくる、スッキリとした顔の女。まったく、出だす前に済ませておいてもらいたいものだ。ともかく、奴の襲撃が無くて何よりだったのだが・・・

 休憩場所に戻る道中、私達の耳に男達の騒がしい声が聞こえてくる。・・・何かあったな・・・

 足早に男達に合流するとそこには・・・倒れた男が一人、そしてその男に必死な声で呼び掛ける男二人の姿があった。

「おい!しっかりしろ!おい!」

 いくら声をかけても意識を取り戻す気配はない。

 私は二人の男を警戒する。何故なら、今倒れているのは奴の依り代だった男だからだ。奴についてわかっていたことがある。それは、奴は憑いた者から離れるときに、エネルギーをどっさり持っていくということだ。ナノハの母親と父親がそうだったように。つまり、今倒れているその男は脱け殻に近い。暫くすれば回復するだろうが、魂が離れかかっている今は、無意識に命を繋ぎ止めているのがやっとな状態だろう。

 そう。ということはそういうことなのだ。奴が憑くとしたら意識を失う直前に一緒にいた、この二人の男のうちどちらかということだ。見た目ではわからない。ここは様子を見るしかないだろう。

 さて、ともかくどうする?このままこの意識を失った男を置き去りにするのは、私にはできても、人間達には出来ないだろう。

「俺がサトルを背負っていく。さぁ、先を急ごう。」

 男前なことを言ってくれるリーダー格の男。そう、私の頭に石をぶつけたこの大学生のリーダーも捜索隊のメンバーだった。おそらく人間目線からすれば、この男がこの夜の主人公的な存在なのだろう。苦難を乗り越え、仲間を守る。なんとも人間的な考え方。

 ? 

 ということは、こいつは奴では無いのか?それとも人間らしい振りをしているのか?まあでも、折角そう言ってくれるのなら、ここはお言葉に甘えておこう。

「じゃあ、お願いしてもいいかな?でも一回キャンプ場まで戻ろうか?」

 実は戻りたくないのだが、ここで気を使っておかないと怪しまれてしまいそうなので、取り敢えず言ってみる私。

「大丈夫だ。それよりも、早くしないと。コウタが危ないんだろ?」

 背中にサトルという男を背負いながら、またしてもリーダー丸出しなことを言ってくれる。まあ、こう言うことはわかっていたのだが。まんまと乗ってくれた。

「うん、そうだね。早くいこう!まだまだ歩くようだから。」

 私は彼等を再び促し、林の中を進んでいく。

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