第12話

 薄闇のなか、人間達は円陣を組むような形で何やら相談している。それはそうだ。実際に、私と言う化け物が存在していることを目の当たりにしたのだから。うかうかテントやキャンピングカーなんかで寝ていられないだろう。

 さて、どうするつもりだ?

 話し合いが終わったのか、一度皆ちりぢりになり、それぞれ椅子や寝袋を持って先程の位置に戻る。そしてそれを地面に置き、みんなで辺りを監視するような形で座る。なるほど。いい判断だ。だが、私に対しての策としては良いが、奴にとっては何の効果もないだろう。このまま様子を見た方が良いのだろうが、いかんせん私には時間がない。次の行動を起こさなくては。

 辺りの木々が、またしてもざわつき始める。もちろん私の仕業だ。

「またあのピエロが出てくるんじゃない?」

 あからさまに声を震わせ、恐怖してくれる女。その通り。私は姿を現す。だが、姿

「みんな、無事?」

 私は先程助けた女の姿に化け、彼等の前に姿を出した。左腕の怪我を右手で押さえ、少しよろけながら。

「エミちゃん?・・・エミちゃんだ!」

 星明かりしかないこの夜の闇の中なら、私の模写と本物との違いに気付くものはいないだろう。だが・・・

「ちょっと待て。そいつ、本当にエミか?さっきのピエロが化けてるかもしれないぞ?」

 勘の鋭いリーダー格の男が、私のことを疑う。しかし、それも折り込み済みだ。この模写と言う能力は姿形だけではない。その者の直近の記憶とプロフィール程度の記憶なら模写できるのだ。

「君の通っている大学名とサークル名を言ってみろ。」

 案の定、本人確認の質問を投げ掛けてくる男。

「国立K大学に通ってて、野良猫調査のサークルに在籍中よ。ねっ、わかったでしょ!あたしだよ!」

 私は必死に訴える振りをする。そして、話題を素早く切り替える。

「それよりも大変なの。コウタ君があいつに捕まって。早く助けないと!」

 コウタとはあの、木に磔にされて命を奪われた青年である。大事なのは、ここで彼が生きているかもしれないと思わせることだ。

「えっ、コウちゃんが?」

 手を口に当て、目を見開き、驚きを露にする女。そして・・・

「無事なのか?早く探さないと!」

「だな。でも何人かでまとまって探しにいった方がいいよな。」

「ああ!早く探しだしてとどめ・・・保護しないと!」

「よし、じゃあ必要なものを用意して早速行くぞ!」

 各々が口々に騒ぎ出し、あっという間に五人の捜索隊が編成される。奴に限っては、焦ったのか、ついうっかり尻尾を出してしまった。恐らく、私がこの女もあの男も回復したのだと思ったのだろう。上手く騙せているようだ。きちんと捜索隊の中に奴は混ざってくれている。

 ここからが正念場だ。ナノハを病院に運ぶため、さっさと奴を葬り去りたいところだが私にはやっておきたいことがある。

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