第11話
キャンプ場周辺の草木が一斉に暴れだす。突風が吹いたわけではない。私の仕業だ。自然エネルギーを使った応用技。この現象を起こしたとき、大抵の人間は何かの予兆だと思い、不安になり、辺りを気にするようになる。案の定キャンプ客達は、何事かとテントなりキャンピングカーなりから外に出て周りを見渡す。狙い通り。だが、ナノハの父親は姿を現さない。
私は川を挟んだ対岸から、ゆっくりと彼等に近づいていく。身を隠さすにだ。早速それに気付いた女がいた。
「ねえ、あれ見て。なんかいるよ・・・」
暗闇の、しかも遠目であるため何かが居ることには気付いたようだが、ハッキリとした私の姿はわからないようだ。
ならばと・・・じわりじわりと距離を縮めていく。
「あれ、ピエロじゃない?・・・やっぱりピエロだよ!ヤバいよ!また誰か拐われちゃうよ!」
悲鳴に近い声で周りの人間達に捲し立てる女。ああ、いい恐怖だ。だが・・・そういうことになっているのか。私を人さらいの化け物として触れ回ることで、奴は自分のしていることをカモフラージュしているのだ。いよいよけしからん。
私は歩み続ける。楽しげに、軽く躍りながら。川の水面の上を歩いていく。もちろん、体重操作を使っている為、沈むことはない。だが人間達から見たら、異様な光景であることは間違いないだろう。恐怖の声や悲鳴が聞こえてくる。
「くそっ!ふざけやがって!」
大学生グループのリーダー格が、掌ほどの石を拾い、私に投げつけてくる。避ける気はない。私はわざと頭部に直撃を受け、白目を向き、体重操作を解除し川底に沈んでいく。これは演出だ。ここで軽い安心感を彼等に与えてやることによって、この後起こる恐怖を更に上長させてやることができるのだ。そしてもう1つ、底に沈めば人の目が届かなくなる。つまり影移動が使えるのだ。やっつけたかもしれないと安心している彼等の背後に、影移動する。と同時に自然エネルギーを使い、辺りの電灯をすべて点滅させた。
「なんだ、なんだ?」
「いやー!なんなのよ、これ!」
またしても恐怖する人間達。おお、とても美味だ。しかし、しっかり味わっている時間はない。ナノハの命の灯火は、消えかかっているのだ。
私は一度、自然エネルギーの放出を止める。すると、先程まで元気に点滅していた電灯達は力を無くし、再び夜の闇に飲まれた。一瞬の静寂。そして・・・
「イッツショーターイム!!」
大声とともに私は姿を現し、エネルギーを至るところに放出させ、すべての電灯に力を与えた。この場にいるこの人間達は、この光景を見てどのような感情を持ったであろうか。煌々と光る電灯に照らされた、怪物ピエロ。おそらく恐怖を通り越して、絶望すら感じたかもしれない。そんな表情を各々が作っていた。ただ一人を除いては。
電灯はこの一時だけ、目映いばかりに光るが、その内流れ込んでくるエネルギーの量に耐えきれなくなり、パンッパンッとあちこちで破裂していく。そして辺りはまた、暗闇に沈んでいった。急な闇に、目が慣れない人間達。私はその隙にまたしても影移動を使い、その場を離れる。しかし、あくまでも彼等全員を監視できる場所にだ。これは奴に対する宣戦布告。私がこのまま黙っていないことを、奴はわかったはず。さあ、どう動く?
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