第4話

 少女は少し怯えた目で、私の後方を見ている。この子も感じ取ったのだ。この邪悪な気配を。

「何かいるよ・・・何か、とてもが・・・」

 なるほど、私は合点がいった。この少女は我々のようなものを感知する能力が高いのだ。おそらく、私のような輩とも出くわしたことがあるのだろう。そしてその経験から、私が暴力的な危害を与えない存在だと察し、安心して絡んできていたのだ。

「帰りなさい。あと・・・私と会ったことは家族には言わないように。」

 そう釘を指すと、とりあえず少女を避難させることにする。おそらく私と同じような、いや、それ以上に凶悪ながいるのだろう。少女はコクリと頷き、来た道を帰っていく。背後にいる私の、更に後方を気にしながら。

 やれやれ。私はどんな奴がいるのか確認することにした。恐らくだが、こいつは人間の命を奪う類いのだろう。私から餌を奪うつもりか・・・とんだ不届きものだ。

 先程気配を感じた場所の近くまで来た私は、取り敢えず木陰から様子を伺うことにする。ガンッ、ガンッ、と何かを叩き潰しているような、派手な音が聞こえてきた。やはりこっち系の奴だったか。どれどれ、どんな姿の奴が・・・!?

 ??

 まさか、これは・・・

 困ったことが起きてしまった。この、楽しそうに人間の頭を殴打している者は、同族ではなかった。ましてや私のようなでもない。

 ・・・人間だ・・・

 人間が人間の命を、事もあろうか狂おしく笑い声を上げながら、愉快げに奪おうとしている。なんという光景だ。黒い覆面で顔の大半を隠してはいるが、体つきから男であることはわかる。襲われている方は、大学生のグループにいた、あまり目立たないタイプの女だ。覆面男は、うつ伏せで倒れている女に馬乗りになりながら、執拗なまでに頭を目掛けて小振りな石を何度も何度も振り下ろしている。辺りには血飛沫が舞い、落ち葉を赤く染めていた。もう相手は意識がない。このままでは魂が肉体から離れていってしまう。

 ・・・仕方ない。

 私は小枝を足で踏みつけ、敢えて音をたてる。ピタッと動きを止める覆面男。そしてスクッと立ち上がると、音のした方へ足を向ける。私は影移動を使い、覆面男の背後に回り、また木の影に隠れる。まだ何者かもわからない奴に、私の正体を明かすつもりはない。私はまたしても木の枝を折り、音をたてる。バッと振り返り、こちらに視線を移す覆面男。そして近づいてくるや否や、またしても私は影移動を使い、別の木陰へ身を隠す。これを繰り返すこと5回、さすがに気味悪くなったのか、覆面男は手早く女の脈を確認し、その場から足早に立ち去っていく。そして、覆面男の気配が完全に失せたあと、私は女の傍らに立った。

 ふぅ、何もここまでやらなくてもよいのに。

 私は女に同情してしまった。人間にもある感情だろう。家畜だとしても無惨に殺されたとしたら、悲しんでしまうのが人間だ。まあ私の場合、悲しむというよりは餌を奪われた怒りの方が強いのだが・・・

 どれ・・・

 私は女の頭部の、特に損傷の激しい場所に手を当て、自然エネルギーを流し込む。これも私の能力の一つだ。あまり使うことがない癒しの力。大地や風、空気、植物等の発するエネルギーを少し分けてもらい、それを対象物に流し込むことで癒しの効果を与えてやる事が出来るのだ。

 一瞬で傷を治すことは出来たが、魂が離れかかっている。私は強引にその魂を引っ張り、器の中に押し入れる。すると、トクン、トクンと脈が戻り、青い顔に生気が戻り始めた。

 女は、うっすらと目を開ける。そしてそこには私がいた。

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