第3話

 少女は一人で林の中を歩いていた。生まれてまだ10年か11年位だろう。まだまだあどけなさが残る。さて、軽く驚かしてやろう。泣きながら家族のもとへ帰るがいい。私は『体重操作』を使い、木の上に登る。この技もそのままの意味だ。自分の体重を極端に軽くしたり重くしたりできる。この能力もかなり便利だ。いざとなったら水の上も歩けるのだから。

 木の上に登った私は、少女の頭の上に小枝を落とす。

「んっ、なに?」

 落ちてきた小枝を見つめ、そして上を向く少女。そこには・・・私がいる。

「!?」

 目があった。さあ、叫べ。恐怖をさらけ出せ。

 ・・・しかし、悲鳴はあがらない。しばらく見つめあう私と少女。これでは影移動を使うことすら出来ない。

「ピエロさん?・・・ピエロさんだぁ!」

 少女は私から視線を逸らさず、キラキラとした顔で、事もあろうか嬉しそうな声をあげる。まさか、この場所で、この私の姿を見て、恐怖を感じない人間がいるとは。確実に計算外の事が起きてしまった。どうする?私。

「ねえねえ、そんなところで何してるの?降りてきて遊んでよぅ。」

 少女は興奮している。どうやら私が陽気な面白おじさんに見えているようだ。まったく、私が俗に言う変質者だったらどうするのだ。親は一体どういう教育をこの娘にしているんだ!とまあ怒ってみても、私にとって、餌である人間の小娘など、どうとも思わないのだが。そんなことより、この事態をどう収集するかだ。

 私は、取り敢えず降りることにした。もしかしたら、近くで見ると違った見え方をしてくれるかもしれない。

「ピエロさん、ピエロさん。何して遊ぶ?」

 ・・・駄目だったか。仕方なく私は懐に隠していたテニスボール程の大きさの球を取り出し、芸を見せてやることにする。一応、この格好をするにあたって、それなりの芸を身につけてきた。私は球を食べたフリをする。そして食べてしまった!という顔を作り、慌てふためる。少女はハラハラした顔で見ていた。私は自分の腹部に手を当て、頑張って何かを引き抜くジェスチャーをする。そしてその手の中には・・・先程の球が握られていた。

「わぁ、おもしろ~い!」

 楽しそうな声をあげる少女。ああ、目眩がする。何をやっているのだ、私は。こういうことじゃないだろう。

「ねえ、ピエロさん。お名前何て言うの?どこから来たの?あたしは『ナノハ』って言うんだ。B県から来たの。」

 私の気持ちなど露知らず、勝手に自己紹介を済ませ、私の情報を聞き出そうとする少女。しかし、餌相手とはいえ、ここは礼儀として答えざるを得ないだろう。

「私はガル・・・いや、クロだ。遠いところから来た。」

 正直、私自身も自分の本拠地はよくわかっていない。恐怖を求め、あらゆる場所を転々としているからだ。そんな私のざっくりとした答えでも、少女はにこやかに聞いている。気が抜けてしまった・・・この少女からの恐怖は諦めよう。

 その時だった。私の背後、林の奥に、何やら気配を感じた。

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