第6話

 木々の影が次第に東へと伸びていき、キャンプ場では蛍のような光がちらりちらりと灯り始める。。夜が近付いているのだ。やっと私の時間がきた。さあ、たらふく恐怖をいただくとするか。しかし、厄介なやつもいる。もしかすると、奴も闇に乗じて行動を起こすかもしれない。その時は私も、不本意ではあるが心を鬼にするしかない。お気に入り以外の、餌になり得ない人間など、私にとっては害でしかないのだ。

 と言うことで、最初のターゲットは奴にすることにした。

 私は、木の影から顔だけ出し、奴が一人行動するのを待つ。そしてその時は、図らずもすぐに来てくれた。筋肉質な体を揺らしながら、用を足しに一人、林の中に入っていく男。私は能力の一つ、『模写』を使う。この力は、一度触れた人間の姿を模写し私自身に反映させるというものだ。しかし今の私の力では、その人間の知り合いに明るい時間、近くで見られたら本物との違いを見抜かれてしまうだろう。本来の私なら、本物以上に本物になれるのに・・・なので、使用はこの時間帯でなければならない。これだけ薄暗ければ見分けはつかないだろうからだ。私は奴が手を下したあの女に姿を変える。さぞ恐怖することだろう。そして後悔するがいい。

 木陰に隠れ、奴が用を足し終えるのを待ってやることにする。一応こんな奴にでも最低限の気を使ってやった。男はチャックを上げ、またキャンプ場に戻ろうとする。それを見計らって・・・

「痛い・・・痛いよぉ・・・」

 私は、奴の後ろからあの女の声を出す。ビクッと身体を震わせ、立ち止まる男。そして、恐る恐る振り返る。

「なんで・・・いるんだ?まさか・・・死なないのか?」

 眼球が転げ落ちてしまうのではないかと心配になってしまうほど目を見開き、驚愕する男。いいぞぉ、恐怖が伝わってくる。どれ、こいつには特別メニューを味会わせてやろう。

 私はノラリノラリと男に近づき、右腕を伸ばす。

「一緒にいてよぉ・・・」

 そう言うと、私は女の身体の表面をドロドロと溶かしていく。正にスプラッター映画さながらの様子だ。

「ひぃ・・・あっ・・・」

 目に余るその姿が、直球で精神に突き刺さり、さすがに堪えたのだろう。まともな悲鳴も上げられずに失神する男。う~む・・・この程度なのか?まだまだ先を用意していたのだが。まさかあれほど猟奇的だった奴が、これしきのことで参ってしまうとは。それに、おかしなことも言っていたな。『まさか・・・死なないのか?』とは一体どう言う意味だ?

 何やら胸騒ぎがした私は、その意味を考えてみることにした。

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・!

 まさか、そんなことが・・・いや、あり得るかもしれない・・・

 私は男をキャンプ場の、人の目につくような場所に移動させてやると、また林の中に戻る。

 確認しなければならない。そして、万が一にも私の想像が当たっていた場合、あのキャンプ場は血の海になりかねないのだ。

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