第8話

 キャンプ場付近はくまなく探した。しかし見つからないということは・・・奥か。私は捜索範囲を広げざるを得なかった。

 キャンプ場から一キロ程離れた頃だろうか。血の臭いがした。ということは・・・私はその付近を捜索する。そしてそこにあったのは・・・ちっ、間に合わなかったか。

 私の目線の先、そこには・・・まるで身体中から血が吹き出したかのような状態で、男が大木に張り付けにされていた。腕や足、腹の肉までもが所々そぎおとされ、四肢には太い釘のようなものが何ヵ所も、遠慮なく打ち込まれている。これはひどい。一般の人間であれば思わず目を背けてしまう程だ。そして・・・散々いたぶったのだろう。顔は恐怖と苦痛で歪んだままだった。まったく、何もここまでやらなくてもよいだろうに・・・楽しんでいるのだ。こいつは予想以上にタチが悪いぞ。私は男に近づき、脈をとる。わかっていたことだか、やはり脈はなかった。時間もたってしまった故、肉体を回復させても魂が近くになければ生き返えさせることはできない。私にとっては所詮、ただの餌の一人にすぎないのだが、このままでは可哀想だ。刺さっている釘を取ってやり、地面に寝かせてやる。

 まったく・・・腸が煮えくり返る思いだ。奴は私の狩り場から餌を奪ったのだ。

 どうしてやろうか・・・

 どこにいる?必ず探しだして・・・

 ・・・・・・

 !!

 くそ!

 私は気づいた。あいつの狙いに。

 私をキャンプ場から遠ざける。端からそれが奴の狙いだったのだ。奴はわかっていたのだ。同族とはいえ、私が邪魔な存在になることに。これはいかん。私は急いでキャンプ場に戻ることにした。そしてその道中あることに気がつく。何故ナノハは何も感じなかったのだろう。あれだけ感の鋭い子が、何故平然としていたのか・・・

 キャンプ場に後少しで辿り着くといったところで、またしても濃い血の臭いがした。私はその臭いを辿り、女の亡骸を発見する。仰向けに倒れ、顔は苦痛に歪んでいた。こっちはまだ死後間もない。何故なら、魂がまだ近くにあるのがわかったからだ。私は直ぐ様女を回復させ、魂を強引に器に戻す。全身が脈打ち、苦痛の顔が穏やかな顔に変化していく。何とか間に合ったか。私は女の足元を見る。散々逃げたのだろう。靴は脱げ、靴下もぼろぼろだ。ここまで来るうちに、生かさず殺さず、奴はこの女を弄んだのだろう。ということは、この女とあの男は取り憑かれていなかったということになる。

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 そう言うことか・・・

 何故ナノハが感知できないのか。いや、しないのか。その理由は二つしかない。

 私はキャンプ場に急ぐ。またしても確かめなくてはならないことができた。ナノハに会わなくては。きっとそれでわかるはず。奴が誰に憑いているのか。

 それにしても・・・

 私はこの数時間で力を使いすぎた。取る食事の量と出ていくエネルギーの量が全然折り合っていない。このまま栄養を取らずに力を使い続けては・・・完全に枯渇してしまうだろう。餌達から恐怖を頂きながら奴を倒す。そう都合よく物事が運んでくれればいいのだが。

 もうすぐキャンプ場だ。辿り着いた私は、そのキャンプ場の光景を見て、愕然とするのだった。

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