Episode18 開発中のため告知なく変更される可能性があります
やあ、僕だけどいきなりピンチだよ。
今日は時間があったから駅前に新しく出来たパン屋に行って来たんだけど、どうもそれがいけなかった。まずものすごい人混み。それから売り切れ続出。そしてようやく買えたと思ったカレーパンの中身がカレーじゃなかった。くそぅ、パンの中にキーマカレーとかいう邪道は許せないねぇ!
まあそのパンはうどんに食べさせるから、別にいいんだけど……。
「よう、会いたかったぜ。死ね!」
「待って、死ねが挨拶になってないかな!? ファイトー! 落ち着いていこ!」
「落ち着いて、死ね」
今日は生憎例の魔法防護スーツは持ってきていない。ここは一つ穏便に行きたかったんだけど、彼女には言葉が通じないのを忘れていたよ。テヘ☆
「安心しろよ、痛いのは一瞬だけだ」
台詞が完全に悪役のそれだ。
震える。悲報。僕、悪の組織のトップなのにただただ震える。
袋小路にネズミを追い詰めるかのようにゆっくりとカナが近づいてくる。その悪魔の歩みが僕のデッドラインを悠々と越えてくるのは想像に難くなかった。
どうする? どうすればいい? ――考えるな、感じろ。
そうか、死ねとはつまり彼女なりの「好きです」と言うことか。フフ、僕の脳内変換レベルはチート級なのだよ。あまり舐めてもらっては困るね。
僕、開眼。――マインドビジョン、オン・ステージ!
『好きです! 好きです! 好きです!』
『動くなよ、好きです。とにかく好きです』
GOOD! いけるいける! しかしこうしてみるとなかなか心地がいいな。
そうかカナは僕の事が好きで激しくしていたのか。
まったく君ってば照れ屋さんだあつうううい! ゴホオオオッ!
「ニヤニヤしながら気絶してやがる……相変わらずキモ。ん、そこに落っこちてるのはこいつのスマホか? ――えぇ……おいマジかよ」
どうやらまた助かったようだ。そこにはすでにカナの姿はなく、僕は意識を失って道端に倒れていた。一体何をしていたのかさっぱり思い出せない。
さてとそろそろ本部に戻らなくてはね。
「リーダー、お帰りなさい」
いつもどおり稲庭ことうどんが僕を出迎えてくれた。短めの近況報告を終えるとそのまま僕は階下へ降りていく。
もちろん焼きキーマカレーパンも渡しておいた。目を覚ましたらなぜかいい感じに焼けていたんだよ。これはいわゆるミステリー案件だね。
「淡麗! 待たせたね!」
「ムフフ、これはこれはリーダー。お待ちしておりました」
彼は自称兵器開発のスペシャリスト、淡麗辛口だ。そういえば本名を聞いた事はなかったけど特に興味もないしいいか。そんな彼から新たな報告があるとのことで連絡を受けていたところなんだ。
開発室という薄暗い部屋に僕を招くと端麗は「しばしお待ちを」とどこかへ消えていく。
ひとまず座って待っているとしようか。そういえば、あまりここには来た事がなかったなと辺りを見回してみる。散乱するカップラーメンの容器や飲みかけのペットボトル。壁と天井にはいかがわしいゲームのポスターがいくつか貼られていた。
うん、見なかったことにしよう。
「ムフォフォ、お待たせいたしました」
「今度は何を開発したのかな?」
「ムクク、察しが良いですな! さすがはリーダーといったところ。まずはこちらの映像をご覧下さい」
いかがわしいゲームのあのシーンが大音量で流れてきた。しかもこいつはロ○コンだ。それに触れてはいけないと本能が告げる。
えー……うん、見なかったことにできませんか?
「ムヒヒ、おっと失敬失敬。こちらですな」
「――こ、これは!? なんとも圧倒的じゃないか!」
「スーツに続く新兵器となるものですな。今後はこれで彼奴らと戦うが良いでしょう。ただ現状では開発中というシロモノですがブヘェアアアックッショオオーーーイ! ショイ!」
くしゃみのせいでほとんど頭に入らなかったが、どうやらそれは新たな力となりそうなものだった。僕は引き続き開発を進めるようにと伝え、開発室を出て行く。
「魔法少女カナよ! 今に見ていろよ!」
そう叫ぶと他の組織員達がこぞって僕の方をじっと見ていた。うん、地味に恥ずかしいねこれ。このやっちゃった感は異常。
ただ一人だけ、うどんがそっと片手でグッジョブのサインをしているのが見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます