Episode15 とある魔法少女のウワサ
いつもの放課後。大事な用があると言って凛果は既に帰宅の徒へ。残った佳奈と愛華は何やら話をしている。
「でね、佳奈ちゃん。隣のクラスに魔法少女がいるらしいよ」
「そうなのか。で、どんな奴なんだ?」
「あんまり喋らないみたいだから、どんな人なのかはちょっと。名前は伊藤さんって言うみたいだね」
「じゃあ一度会ってみるか」
言いながら教室から出ようと席を立つ佳奈。
「他の女に会いに行こうと言うのね! 私という者がありながら!」
「カナちゃんばいばーい!」
『まったねー☆』
「私という者がありながら! 私という者がありながら!」
瞬間的に表情が険しいものとなる。これは佳奈の十八番の瞬間顔変えと言われる伝統芸能の一種である。これに睨まれた者は三日は悪夢にうなされ、食事もろくに喉を通らず、最後にはうわ言のように「すいません……」としか言えなくなってしまう禁じ手である。
「は? 何かいったかゾウリムシ」
「好きだと言った!」
愛華はかがむと佳奈の太ももに抱きつき、やさしく二回キスをする。死んでも悔いはない。仮にあるものだとしてもそこに悔いなどは存在するのだろうか、いやない。愛華は本物の真のチャレンジャーであった。
「お肌すっべすべだよ佳奈ちゃん! あぁさいこうあああああぁ!!」
『最近こういうストレッチが流行ってるみたいだよぉ~☆』
佳奈の無言の四の字固めが極まっていた。悶絶する変態を尻目に彼女は教室を出て行く。
***
隣の教室を覗いてみるとまだ何人か残って話をしている。どうやら女子生徒は既に居ない。趣味が悪いとは思いつつ佳奈は聞き耳を立ててみるのであった。
「あの格好は絶対そうだって!」
「伊藤さんのことか?」
「そうそう。いかにも! って感じじゃん?」
「でもあの子が話してるの見たことないな。結構ミステリアスなところがあるような……」
なるほど、噂は本当だったのだなと佳奈は確信するのである。これは日を改めて話をする必要があるなとも。
「そんなことより、これ見ろよ!」
「これって……いやいいのか!?」
「写真部が限定品だって売ってくれたんだ」
「カナさんのキス顔ショットとかヤバすぎでしょ!」
――ガターンバタンバタン
思わず登場する形となったご本人様である。驚く隣クラスの二人に早足で近づくと写真をひったくるようにして確認する。うわマジか。佳奈は軽く眩暈がした。どんなタイミングで張ってたんだとむしろ感心すらしてみせた。
『これはちょっと、困るなぁ~……』
「か、カナさんがどうしてここに!?」
『これちょうだい? ……代わりにこれあげるからぁ』
佳奈は凛果から貰った高級チョコレートを差し出す。こんなモブキャラにくれてやるのは惜しかったが口止め料としては悪くはないと判断したようだ。
「ど、どうぞ!はい!」
とりあえず――写真部、潰すか。
新たな敵の出現。佳奈の戦いは続いていく。
***
「では伊藤さん。伊藤さん、聞いていますか?」
「……はい」
か細い声で返事をした伊藤と呼ばれた少女の名はアリオ。制服を自己流アレンジしたものを常に着ており、周りからは寡黙な魔法少女だと勝手に認知されている。
そのあまりにも不思議なキャラクターには誰も寄り付かず、かと言って彼女からも何か働きかけるわけでもなく、クラスではほぼ一人孤立しているのであった。
「魔法少女よ、覚悟!」
「本当、何々ですか……?」
今日もまた変なスーツを着込んだおじさんが立ちはだかっている。彼女は困惑していた。連日、一体何が目的なのだろう。
その不審者は彼女を目掛けて突撃を試みたのであった。
「仕方がない、ですね……」
呟くと彼女はステッキをかざし何かを唱え始めた。
「リ○カルトカレフキルゼムオール」
キメポーズ。
「ぐわあっ!」
上空から突然看板が落下し男を直撃する。
「リリカルトカレ○キルゼムオール」
キメポーズ2。
「雷でスマホが! スマホがあああ!!」
雷雨が男だけに降りかかり、直撃したスマホを黒く焦がす。こうして今日も謎の怪しい男を撃退するのであった。
「はぁ……。私、魔法少女なんかじゃないのに」
伊藤アリオはただのコスプレオタクである。休みの日などはコスプレイベントにも参加してみせる生粋のオタクであった。
キメポーズと共に出ているものは雰囲気だけは魔法なのであるが、そうではない。彼女は謎の幸運値補正を持ち、敵のようなものとその正体がよくわからないまま日々戦っている。
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