Episode07 魔法少女だって眠りたい。

「しんど……」


 井吹佳奈いぶきかなは疲れていた。

日々明け暮れる戦いとアルバイト。それに加えて学校での勉強。時間はいくらあっても足りない。まだ朝だと言うのにすでに満身創痍である。


 そしてそれ以上に疲労の原因となっているもの。それは、佳奈いわくあのクソ虫野郎の妨害来店であった。

 さらに極め付けが緊急要請をうけて現場へと向かっても奴は居ない事。そこらにいた戦闘員らしきものに尋ねてからだにきいてみても、しどろもどろにちぐはぐな答えを返すのみ。


 どうやらアイツは私を避けている、クソが。ああむかつく、やっぱりあの時始末あたまをつぶしておくべきだったと佳奈は後悔した。


 その日、一人の戦闘員がとある組織から離脱した。


「――井吹! おい井吹、聞いてるか?」

『あ、はーい。ちょっと調子が悪くてぇ……』

「おう、大丈夫か? 保健室行ってもいいぞ?」

『いいえ、私、がんばりますからぁ。先生の授業、わりと好きですし☆』


 数学教師の田中カッパの声で佳奈は我に返る。今は授業中だったようだ。例によっていつもの甘々ボイス、かつ体調悪いですアピールで黙らせておく。

 このくらい言っておけばいいか。うわ、めっちゃウキウキしてんな田中。それは引くわ。ちょろい。こいつら本当ちょろい。

 本当の自分を知ったら泡吹いてぶっ倒れるんじゃないか、と内心ほくそ笑むのである。



「佳奈ちゃーん!」


 授業が終わると愛華がやってきた。


「何か用?」


 顔を上げることなく、それはそれは気だるそうに佳奈は返事をしてみせた。


「もうお昼休みだよ? たべよたべよ! あ、でも私は佳奈ちゃんの唇を食べたい。唇どころか脇とか膝の裏もぺろぺろしたいし脱ぎたてのニーソも欲しい。あとあわよくば制服も持ち帰ってスーハースーハーしながら寝息を立てたい! このとおりですどうか言い値で売って下さい」


 愛華のレベルは確実にアップしていた。

 一息で欲望を言い切るとこの後の展開に期待しているのか、だらしなく顔を緩めている。


「げ、弁当忘れた……。購買行くか」

「あ、あれぇー? う、うそ、今日はご褒美くれないの!? ま、まって佳奈ちゃん私も行く! お弁当持ってきてるけど!」


 スタスタと教室を後にする佳奈とそれを追いかける愛華であった。


「佳奈ちゃん何か変だよ。悪いものでも食べた? それともあの日かな?」

「ちげーわ、おっさんか。変ったって、お前よりは全然マシ」

「え。うーん、いつものキレを感じない……こう、尖ってて……こう……」

「本当なにがだよ……」


 二人はコロッケパンをかじりつつ会話を続ける。


「そういえばね、この学校に転校生が来るんだって」

「あっそ……」

「それがねなんと、魔法少女の反応がでてるんだよ!」

「で、また『魔法少女ネットワーク』情報?」

「そうそう! よくわかったね」

「あれ本当に実在してんのか……」


 佳奈にとって転校生の存在など、どうだっていい事になるはずだった。いつものように一人で戦い、すべてを葬り去るのみ。これが魔法少女カナの戦い方やりかたである。

 しかしこの時の彼女にはまだ、敵の本当の恐ろしさをわかっていなかった。


 最悪最凶の敵がこの街に近付きつつあることを――。

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