Episode02 新たな戦いですか?(前)
「凛果、場所はここだよな?」
「ええ、このあたりのはずなのですけれど……」
これまでとは異なる反応をキャッチした魔法少女達。
万が一を考え全員で向かわずに様子を見ることになったのである。当然ではあるがこれは佳奈の判断によるもの。
そしてやってきたここはどこかの変哲もない空き地である。近くにはアウトレットモールがあるとグーグルマップは語っていた。
探索及び遠見の魔法で周囲を警戒していた愛華が何かを見つけたようで、上空を指差している。
「佳奈ちゃん、凛果ちゃん、上になにかいる!」
「そこにいるのは誰だ!?」
視線をあげると何者かが電柱の上に立っている。
『愚かな魔法少女達よ……聞くが良い、行くぞ!』
声の主はその場から華麗に跳躍を見せた。
トンッ。
ヒューン、ドサァ。
着地を失敗したかのように激しく地面とキスをする。今のは通常の登場ですよと言わんばかりに立ち上がるその姿は、あまりにも人間離れをしていた。それはどう見てもまさしく異形の者であった。
そしてギギギと重々しく口を開き始めたのである。
『かつてはケータイと言えば我々のことであった。それが時代が進むにつれてアイフォンだのアンドロイドだの……あれほどチヤホヤされていたのに悔しい! 許さぬ許さぬぞ人間ども! クックック……我こそがガラパゴス携帯の化身、ガラゴス! スマホ及び人間どもを殺す者だ』
一息でそれを言い放つとぜいぜいと肩で呼吸をしている。
対する佳奈達はゴミを見るような目で
周囲の枯葉を舞い上げる強い風が一つ、静かに両者の間を通り抜けていく。
「え、ごめん何て? 声が小さすぎて聞き取れなかった。ていうかお前普段からあんまり喋らないタイプだろ」
「滑舌もあまりよろしくないように感じますわね。もう一度頭からお願いしてもよろしいかしら? できれば登場シーンから」
佳奈と凛果は電柱の頂上を指差してアンコールをする。
「二人ともやめてあげてよぉ! 相手のライフはマイナスだよ!」
『我はガラゴス! 我はガラゴスぅ!』
子供のように地団太を踏み始める男ことガラゴスである。
その様子を見て後ずさる二人をよそに凛果が一歩出て話を進める。
「えぇ……それでガラゴスさんでしたわね。わたくし達に何かご用ですの?」
『ナイス進行! 我の姿をみて何か思い出さない?』
佳奈達はそれぞれの顔を見合わせた。
「テレビのリモコンか? それにしては変な形してるけど……。あと私の家にはないけど家電の子機っぽい気もするな、なんとなく」
「わたくしには一切見覚えがありませんわ」
「あ、私見たことある! あれおじいちゃんが使ってる携帯電話に似てる!」
ガラゴスはドシンドスンと音を響かせて佳奈達に詰め寄るも、三人は同じように背後に距離を取る。その様子に心なしか彼は寂しそうであった。
『え、ちょっと待って! 誰も我のこと知らない感じ!?』
「知らないけど、とりあえずぶっぱなせば終わる話だろ」
『いやいやありえないし! ねえお仲間さん、この子目が据わってるし明らかにヤバいオーラでてるよね!?』
愛華と凛果は「いつもこうだよ?」的にうふふ……と笑い、佳奈がとてもいい笑顔で魔力放出を試みていた。
「なんだ? 魔法が出ないぞ。まあいいか、とりあえずこの角材で」
「佳奈ちゃん落ち着いて。それはガリガリ君のハズレ棒だよ!」
「……あら本当に出ませんわね。これはどういうことでして?」
『フハハ、残念だったな! 我の固有フィールド「認識されてないのマジ悔しい」の前では魔法は発動で・き・な・いのだ!』
予想通りの反応だったのかガラゴスは上機嫌になっているように見える。
体を不気味にパカパカと鳴らすと三人はジリジリと後退していく。
決して縮まらないその距離は、すでにちょっとした川の幅を越えていた。
「どういうことだ? 固有フィールドって何だ?」
「つまり……ガラゴスさんのことを知らないと、わたくし達は魔法を使用できないと言うことですのね!?」
『お手本のような解説! フム、そこの縦ロールちゃんは中々に賢いようだな!』
オホホホと高笑いをする凛果をよそに、佳奈と愛華はスマホを取り出す。とりあえずググろうとしているのだ。
「チッ、仕方ない。調べたあと叩き潰してやるから待っててくれ、ガラドン」
『ちがーう! ガラゴスと言うておろうが!』
「私も私も! いったんタイムねガラポン!」
『福引っ!』
律儀に待つガラゴスはハッと目の前の事実に気づくと、その場で体育座りを始める。
『クッ……憎きスマホにググられてる我って一体? って感じだけど、これも時代の流れか……是非もなしよね……』
「何か葛藤しているようですわね。わかりませんけどあの方から悲哀のようなものを感じますわ……」
「悪い人にも色々事情がありそうだね~……」
佳奈はスマホをポケットにしまうと口を開く。
「待たせたな。要するにガラパゴス携帯っていうのは――というものらしいな」
『待て、雑に省略をするな!』
「チッ、ダメか。結構面倒臭いヤツだな……。愛華頼む!」
「2010年代以前に(略)日本市場のみに特化したフィーチャーフォンである『ガラケー』の開発に注力しすぎた結果(略)、2010年代以降に多くのメーカーが携帯電話市場から撤退することになった、らしいね!」
『うぐっ……刺さる! 主に心とかに!』
佳奈は近くの木に風の刃を飛ばす。すると枝についた葉っぱがいくつか落ちてきた。
どうやら固有フィールドは今ので解除されていると見て良いだろう。
「じゃあそういうことで覚悟しろよ!」
『いや待って! 何かこう、ないの? 名残惜しさみたいなもの?』
「ないけど?」
ククク、と佳奈は悪役のように笑う。
「あ、いや一つあったわ。お前は昔調子に乗っていた。で、今は代わりが現れたからって逆恨みしてるだけの、ただのくだらねえヤツってことだ!」
『くだらぬだと……? おのれおのレェ! オノレ魔法少女ヨ、許サヌゾ!』
「何ですのこれは!? 力が大きくなっていきますわ! 気をつけて!」
ガラゴスの様子が変化していく。それは充電完了後のみに訪れる万能感のようなものを纏っているようにも見える。バチバチと体にそれを帯びて光を放ちはじめる。
「やっとぶっぱなせるな! 行くぞ二人とも!」
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