Episode01 私達の戦いはこれからだっ!

 ここはいつものバーガー店……ではなく、駅から一番近いという理由で選ばれたファミリーレストラン、ベニーズである。


 この店の入り口から一番遠い、歩道側に位置するテーブル席の一つを四人の少女達が占拠している。全員着用している制服は同じ。つまり同一校に通う友人同士、あるいは姉妹であろうと見て取ることができる。

 そして今しがたこの店へ入って来た少女も同じ制服を身に纏っている。そのまま四人が座るテーブルまで歩を進めるとその少女は手を振り、椅子へ座ろうとした瞬間――血を吐いて倒れるとそのまま帰らぬ人となる。

 そして床には赤い文字のダイイング・メッセージが残されていた。

 


「――という導入から推理ものが始まったりしませんかね?」

 と語りだしたのは早乙女濫。そもそも少女ではない魔法少女おとこである。


「…………それはない」

 その隣でコスプレ好き一般人である伊藤アリオが、静かにそれを否定する。


「なんとも夢見がちですのね。そんなことが現実に起こるはずがありませんわ」

 そこから真正面で優雅にホットミルクティーを飲みながら、それに続くのが財閥嬢・花ヶ前凛果。


「あ、でも私いつも血出てるよ! もしかして私、真っ先にやられる被害者適正あるんじゃ!」

 その隣で一人はしゃいでいる愛華・ローレンは、別の少女から即座に足を踏まれご満悦の様子。


「さて、そろそろ始めるぞ。ようやくこれで全員揃ったわけだしな」

 と最後に口を開いたのがこの集まり――魔法少女達のリーダー格と言えよう井吹佳奈である。


 この五人こそが秘密結社『悪の組織』と戦う運命を背負いし魔法少女である。

 その戦いは恐らく熾烈であり、命を落としたり落とさなかったりするのであろう。それほどに過酷な運命のような気もしなくはないのである。

 今日こうして集まったのは佳奈からの提案であり、一応の顔合わせのようなもの。とはいえ女子が五人も揃えば姦しいどころかやかましいのである。この会の雰囲気はなかなかに和気藹々と言ったところに属してもいた。


 そのリーダーである佳奈は佳奈で入学当初と比べると大分、表面的には大人しくなった印象を受ける。しかしながらその反面、戦闘での凶暴さは当社比五倍を観測した。アリオなどは未だ彼女の裏の顔に必要以上に怯え震え上がっている。


「濫とアリオって前からの知り合いだったの? 何かもう打ち解けてない?」

「そうですよ。カナさんと出会う少し前に友達になりましたね」

「……はい、ごめんなさい。すみません」

「お前はなんでいつも謝るんだよ……。私何かしたっけ?」


 隣で愛華は何か一人呟いている。


「最近かまってくれないなぁ、おかしいなぁ。もしかして愛人でもできたのかなぁ? 佳奈だけに、佳奈だけに!」

「うっせえ! そもそもお前は恋人でも奥さんでもなんでもねえよ」

「人の繋がりができるというのはそういうことですわ。これまで通りにはいかなくなるのではなくて?」



「でも安心して、すぐにカナ以外のやつは離脱することになるから。ふふふふふ!」


 いつからか佳奈の目の前には一人の少女が立っていた。


「マヒロ!? どうしてここに!」


 マヒロと呼ばれた彼女は魔法少女ではない。それ故に憧れを持つものの、佳奈以外の者に対しては激しい敵意を持ち排除しようとするのである。彼女を言い表すのならば、『佳奈さえいればそれだけで良い大変危険な女』と言えよう。


「あれ……? そこにいるのは……ぴこメ!」


 マヒロは濫をじっと見つめている。対して濫は俯いて顔を隠そうとしていた。


「……濫、知ってる人?」

「え、ええと……」


「ふふふふ、そういうこと? もしかしてことって」


 ――ガタン


「あああああっ! トイレ! なあ、マヒロも行け!」

「アタシはどこまでも行くカナ! カナだけに行くカナ!」


 急に声をあげて立ち上がった佳奈は、マヒロを連れて強引にこの場から立ち去る。

 その様子を見ていた濫以外の三人は不思議そうに首を傾げていた。


***


 ――そして、である。この場にはもう一組居る。

 それは魔法少女達の動向を見張る者達である。


「ふむ、ついに五人が揃ったようだね」

「そのようですね。しかし、リーダー。私がここにいて大丈夫なのでしょうか?」


 リーダーと呼ばれたその男こそが、魔法少女達と敵対している『悪の組織』の長たる人物である。

 彼は正面に座るサングラスの男に向かってこう答える。


「ああ、受付業務も自動化できるようになったからね。君には秘書として僕についてもらうことになったよ、うどん」

「はっ……!」


「ムフフ、彼奴らもじきに思い知る事になりましょう。こちらとて仲間の集結を指を咥えて見ていた訳ではないのですからな!」


 と言いつつ付着したフライドポテトの塩気を指を咥えてしゃぶり尽くす男。


「淡麗、君のお陰だよ。これでついに我々は勝利を収めることができる!」

「ムクク、それは完遂してから聞きたいセリフですな。はてさて、作戦決行はいつごろに?」


 二人の部下らしき男達の視線を受けるリーダーであったが、しばらく考えると口を開く。


「そうだねぇ。これはトップシークレットなんだけど、君達には知らせておこうかな――」


 こうしてそれぞれの思惑のもと、新たな戦いの日々が始まるのである。

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