Episode02 悪い人は二度死…なない!

「魔法少女っていうのはね、満たされてなきゃダメなわけ。独りで厳かで……」

「何こいつ、キモ。ていうか何で生きてるの? とりあえず、念のためもう一回殺しとくか……?」


 交渉は決裂した。先日の爆破で運良くマンホールに助けられた僕だよ。いやまあ、落っこちたわけだから怪我はしたけどね。一応命は助かったってことで一つ。

 それよりも目の前の魔法少女の殺意が高すぎる。ゲージ振り切ってるよねもう。

 この人悪いやつ絶対殺すウーマンでしょやっぱり。


「まった! 少しだけ話をしよう! いざ、しよう! 対話!」

「しねえよ、死ね」


 考えるな、感じろ。この地と一体となりこの異常事態から逃れる術を得よう。

 容赦なく炎の雨が降り注ぐ。どうやら、感じたのは熱さのみのようだよ。

 そもそも、交渉以前の問題だった。しかし何故にこんなにもヘイトが高まっているのかな? まるでネトゲの挑発スキル並みの喰いつきではないだろうか。それも効果時間無限の。

 フフ、まさかこの僕がチート能力に目覚めるとはね。まいったな。……ああ、本当にここで殺されるわ。


「僕を殺しても何もならんぞー! 下らん抵抗はやめろー!」

「どうせ喋れなくなるんだから、今のうちに好きなだけ吼えとけよゴミムシ」


 雷撃を建物の影に隠れてやり過ごす。なおも魔法少女はゆっくりとこちらへやってくる。足音が近付いてくる。もうだめだ、おしまいだ。

 ……ん? 急に静かになったな。少し様子を見てみるか。

 いくつか石を投げて確認してみるか。当たったら申し訳ない! むしろ当たれ!

 でも反応はないようだ。


 ――何ということでしょう。そこには何と、魔法少女の姿はなかったのです。一体どこへ消えたのだろう?

 まあいいか、とにかく助かったのには変わりない。



 井吹佳奈いぶきかなは焦っていた。急いでいた。ケーキ屋でのアルバイトの時間が差し迫っていたのだ。サッと殺してすぐに向かえば間に合う計算だった。しかし、予想以上に粘られてしまった。

 いくら悪者相手であっても給料には変えられない。給金イズ正義なのである。結果、今回の戦いは彼女に相当な苛立ちを残す事になった。


「カナ、遅刻ギリだったよー?」

『ごめーん、電車に乗り遅れちゃって~。テヘペロ☆』

「ははは。カナちゃんは本当おっちょこちょいだねぇ」

『てんちょー、ひどいですよぅ』


 井吹佳奈は生粋の猫かぶりでもある。心を許したものと敵対するもの以外には、この態度を崩さない。完璧にドジっ娘キャラを演じてみせている。

 学校という名の社会の縮図においてもそれは変わらない。

 そして本来の生真面目さから、上から数えた方が早いくらいに成績は良い。なおかつ天性の運動神経を持っている。これまでにも何度か部活動への勧誘にあってはいるが、そのすべてを断っている。


 文字通りの容姿端麗、文武両道を地で行く完璧人間。それが井吹佳奈である。クラスメイトはもちろん、先輩後輩からも人気は高い。噂ではファンクラブなるものも存在しているという。


『ではお疲れ様でしたぁ~!』

「カナ、気をつけなよ? まっすぐお家に帰るようにね!」

『もぉ、私だって子供じゃないんだし、わかってるよぉ~』


 彼女お得意のキラースマイルである。これでハートを射抜かれた者は男女問わず数知れない。



「はぁ~。クソ、ダッッル」


 スマートフォンを取り出してのゲーム。初めは流行っているとかで強引に誘われたものであったが、最近ではのめり込みつつある。通話は一切しない為、格安会社での格安プランで現状は事足りる。

 それはここのところの彼女の日課となっている。


 路上に捨てられていたペットボトルに視線を下ろし、そのまま思い切り蹴飛ばすと彼女は帰途につくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る