Episode14 FCってフットボールクラブの略ですよね!?
星蘭高校一階端のとある一室。そこには怪しげな集団が十数人ほど。円卓状に机を固めて何かを話し合っている。
「それでは、今回の議題について話を進めていきましょう」
メガネクイッーから始まった進行らしき男の宣言。いかにも不正は断じて許さぬといった風貌。そこからはクラス委員長然とした風格をありありと感じる。
彼の名は田中一郎。寡黙で真面目、好きなものには一途、好き嫌いも食わず嫌いもなく例え不味いものが出てきても平然と食してみせる。読書をこよなく愛し読書に愛された男、その名も田中一郎。彼はクラス委員長などではない。
「皆さん、静粛に! 静粛に!」
彼女の名は佐藤茜。一見するとほぼノーメイクの地味な見た目とは裏腹にスカートは短め、偶に一人で不気味に笑う仕草を見せ、裏で何か暗躍しているのではと周りから恐れられ噂される女、その名も佐藤茜。彼女は前日読んだ漫画の神展開を思い出して笑っていただけである。
「ふたりとも、下がっていいよ。今日ばっかりは大事なことだからあたしから」
「会長!」「まさか会長が……!?」「つつつ、ついに会長が!」「会長好きだ!」
大きくざわめく室内。
いや、今「静粛に」と言えよ佐藤。この場にいる誰もがそう思ったのであるが、雰囲気的に何となく声をあげることができなかった。
会長と呼ばれたその少女は立ち上がりおもむろに口を開く。
「カナ好きだ! いや、愛していると言ってもいい!」
「「うおおおおおおおおっ!!」」「俺には会長しか見えない!」
更なる盛り上がりをみせる空間。パッと見では何かの宗教的な異質さを感じるのではあるが、この場においては
「して、会長。何かあったのでしょうか?」
「おお、そうだった。おおありだよ。大問題が起こってる」
会長は力強くバンバンと机を叩く。しかしその強弱の加減を誤ったのか、激しい痛みに小さな手をふーふーしていた。彼女は両目に涙を浮かべながらも、強がる表情を崩さず前だけを見つめる。
何この人可愛い。場におけるすべての人間がそう思ったという。
「偽者のファンクラブが発足したとその手の者から情報が入った! この事態、あなたたちは看過できるの!?」
「なんだと、許せん!」「偽者は粛清されるべき」「この中に内通者がいるのではないか?」「怒りに震える会長もたまらん!」
口々に意見が飛び今日一番の盛り上がりを見せる室内。しかし佐藤と言えばスマホで何かを見てほくそ笑んでいた。いかにも怪しいこの佐藤ムーヴを見るや否や、外野から国会の如し野次が飛ぶ。
「なぜ今笑っている? お前まさかスパイなのでは!?」「そうだそうだ!」「やっぱりお前……!」
俯き加減の佐藤はクックック……と笑い、いかにも黒幕でしたといった風な雰囲気を醸し出す。そうして歩き出した彼女は会長に向けて床に額がつくスレスレの土下座を決め、手にしたスマホの画面を見せて潔白を証明してみせた。
――お笑いライブチケット当選のお知らせメールが届いていたのである。
彼女は一度でいいから事情ありげにクックック……と笑ってみたかった、笑いたいからただ笑っていただけである。
すっかり騒ぎが静まった後、佐藤は立ち上がりしれっと「静粛に」などと言い放った。それは遅すぎた発言ではあったが、既にこの時には満場一致で許される形となっていた。
「偽者は見つけ次第捕らえること。その後、あたし直々にしかるべき制裁を与える!」
「うおおおおおおおおおおっっ!」「「「会長に仕置きされたぁい!」」」
見事に一致団結を果たした『井吹佳奈ファンクラブ』。運命の対決の日は近い。
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