Episode12 愛華の日常
「うわあ~!やってるやってる! やっぱり凛々しい凛々しいよ佳奈ちゃん!」
じゅるりという大きな音を立てながら、興奮気味に見たままを一人ごちる。今日はオフ日なのであるがオフなどは存在しない。彼女には魔法少女カナこと井吹佳奈の動向を逐一チェックするという、誰からも頼まれたわけでもない己に課した使命を持っているからである。
このストーカー女の名前は、
「ぶっはぁ! い、今……み、みえ」
佳奈の必殺・炎を纏った回し蹴りが敵戦闘員達に襲い掛かる。吹き飛ぶ戦闘員ABC。そしてそれをただ見ているだけの愛華から、勢い良く鼻から吹き飛ぶ鮮血。
その間絶えずスマホを片手にカシャカシャとやる。これが彼女の日課となっていた。
「で、ただ見てただけって何だよ。……おい、今隠したものを見せろ」
「ごめん佳奈ちゃん! 私急用を思い出したよ! たった今!」
「わかった、好きなだけ休養するといい」
佳奈がそれはそれはとても良い笑顔を作る。
あ、これやばい。愛華は危険を察知して全速力で逃げ出す。
――ゴゴゴゴゴゴゴ
急に彼女の足元の地面が揺れると
追いかけてくるそれに愛華は死の恐怖を感じていた。だが同時に自分は手加減されていない、佳奈が全力の愛をぶつけに来ている。その事実を考えるとゾクゾクするものも感じていた。
そして彼女は「
「あ、緊急要請だ。今日は佳奈ちゃんいないし私が頑張らないと」
そんなターゲット不在日の愛華はやたらとテンションが低い。まるで水に塗れたアンパン○ンのように、新しい顔を渇望するものの力が出ない。
「あ、あなたは……」
「やあまってたよ、ハーフの君。お姫様の目を覚ますため、少し痛いだろうけど我慢しておくれ!」
「また変なこと言ってる……」
颯爽と白のスーツ姿で現れたのはもはやお馴染み、悪の組織のリーダーであった。愛華からしてみればただの変なお兄さん、あるいはおっさんである。
何で自分が追われているのかが愛華には理解ができない。佳奈が言うとおり、やはり恨みを買ってしまったのだろうか?
「ごめんなさい。私何かしたなら謝りますので許してください」
「そうだね。俺のハートを奪ってしまったという罪があるね」
この会話は果たして成立しているのだろうか。彼女はよくわからないまま続ける。
「何度も言ってますけど、私たちには戦う理由がないんじゃないかなって」
「こっちにはあるんだよ! ふふ、まったく君は奥ゆかしいんだから」
もしかするとこの人はとんでもなく危ない人なのかもしれない。だとすると佳奈があれほど敵意を抱くのにも合点がいく。しかしここで倒してしまうと佳奈が怒り狂うのは間違いない。絶対自分がぶちのめす予定だったのに、と言うのは想像に難くなかったからである。
倒した場合の佳奈からのお仕置きと、倒さなかった場合の佳奈への貢献度を量りにかけてみる。言うまでもなく、圧倒的にお仕置きのほうが勝っていた。野球で言うならば3回裏終了時点で33-4である。
だがそこで愛華は踏みとどまった。何が彼女をそうさせたのかは誰にもわからない。
「やっぱり無理です! ごめんなさい、さようなら」
「また逃げるのかい? どうして君はロミオなんだい!」
「そういうところが無理です」
付き合いきれなくなった愛華は全速力で駆けていく。負けじと彼女をリーダーも追う。だが年の差が如実と現れているのだろうか、愛華の姿は小さくなっていき、遂には見えなくなった。
「ぜえぜえ……。それでも負けないよ。逆にこの展開、燃えたぎる!」
息を切らせつつも大声で決意表明をする男が一人。通行人はそれを見遣ると鼻で笑い、その上空ではカラスがアホーと鳴いていたのであった。
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