Episode04 僕の組織を紹介します

 魔法少女からの襲撃に遭い、奇跡的に助かる事二回……正直死んだと思ったよ。また戻ってこられるなんて感慨深いなあ。

 そう、ここは秘密結社【悪の組織】本部。といっても支部なんてものはないけどね。まあこういうのは雰囲気とかノリとかそういうのが大事なんだよ。男の子なら秘密基地なんて昔、夢見ただろ? その響きにワクワクしただろう?

 そんなことはなかった? あぁそう。


「おぉリーダー、ご無事でしたか」

「今戻ったよ。色々とご苦労さん」


 1F、エントランス。

 僕を見かけるや否や声を掛けて来たそいつは稲庭。コードネームは《うどん》だ。別にうどんが好きというわけではない。たまたま僕がその時食べたかったからそう名付けた。

 彼は受付担当だ。他にはビラ配りやダンボール潰しなどの雑用をやってもらっている。雑用とは言え与えられた仕事はきっちりこなす。なかなかに真面目な男だ。


「何か変わった事はなかったかい?」

「はい、特には……。訪問もありませんでしたしね。それでは自分は業務に戻ります。何かあったら声を掛けてください」


 うどんに手を振って別れ、俺は階下へと足を運んだ。


 B1F、事務所。

 秘密結社といえば地下組織と相場が決まっている。だから下に降りて行くような物件を選んだんだよ。地下組織ってかっこいいよね!

 そうでもない? あぁそう。


「お、帰ってきた帰ってきた」

「あ、生きてたんだ?」


 事務員の磯貝さんと田中(恭)さんだ。コードネームはそれぞれ《山盛りのパクチー》《BL小説》だ。正直どんな由来でつけたのかは覚えていない。たしか飲み会の席だったとは思うんだけどね。

 まあコードネームとかはそこまで重要でもないから別にいい。


「何か変わった事は?」

「ないない、だいたい私ら事務は暇なのがデフォルトじゃない?」


 パクチーは右手にスマホを持ち、キーボードを片手で扱い何かタイプしている。相変わらず器用な人だな。


「あ、電話あった。いつものあれね。返事は保留ってことでよかったんだっけ?」

「それで大丈夫。しかしあれもしつこいねえ……。とにかくありがとう」


 BL小説が黒縁メガネをクイックイッとしながら答えてくれた。この娘はメガネを取った方が絶対似合うと思うんだ。

 そんなつまらないことを思いながら、次の部屋へと進む。


 B1F、戦闘員控え室

 戦闘員は普段は大体出払っているよ。当然、街での業務にあたっているからだね。

川の水を汚染させる薬品を流したり、騒音を撒き散らして住民が出て行くまで粘ったり、近所で評判の呪い師を雇いカラスを呼び寄せたり、ただの小麦粉を意味ありげに密売したり、第三のビールのみを箱ごと買い占めたりしている。

 もちろんそれぞれにきちんと意味がある。この結社は無闇やたらに活動をしているわけじゃない。そして、市民には直接手を出さない。ただ単に間接的にこちらに頼らざるを得ない状況を作り出しているだけなんだ。


 さて、その際に障害となるのが魔法少女。どこからか場所をつきとめてこちらの邪魔をしてくる。悪しき魔女と言ってもいい存在。特に魔法少女カナはこちらでは手に負えないくらいの暴れ馬ときた。

 奴が現れるようになってからは、こちらの負傷者数が増加の一途を辿っている。そのうえ彼女にトラウマを持つ者も少なくなく、それにより退職者も相次いでいる。これは由々しき事態だ。


「おうおう、リーダーじゃねぇか。いつ戻ったんだ?」

「ヤン○ーディーゼルか!元気そうだな」


 外国人枠としてスカウトした大型新人、ボブだ。彼は現状で最も荷物を運ぶ事ができるパワー自慢だ。結社オリジナルのミネラルウォーターや麦茶、ビールを運ぶのにうってつけの人材と言える。


 しかしまだまだ人手が欲しいところ。こうなったらビラをもう少し増刷してばら撒いておこう。

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