シーン3-1
「神様。」
帰り道、みぃと並びながら帰っていると、どこか緊張したような感じでそう話しかけてきた。
「ん?どうかした?」
「ちょっと、お願いがあって……」
「いいよ。なんでも言って?」
「うん……ボクに料理を教えてくれない?」
「……うん。わかった」
心に、モヤっとしたものが生まれる。
「でも、どうして急に?」
「……恥ずかしくて、言えない」
「そっか」
少し顔を赤くするみぃを見て、心に痛みが走る。
気持ちが、沈んでいく。
わかってるんだ。これは、不安なんだって。
みぃが、いつまでも僕に依存しているわけじゃないってわかってる。
「じゃあ、今日の夜から練習してみようか。まあ、みぃは器用だからすぐ上手くなるよ」
「うん。頑張る」
そう言うと、みぃは僕の左手を右手でにぎって、引っ張る。
「そんなに楽しみなの?」
「うん。神様と一緒だから」
「そっか」
「うん。一緒がいい」
「でもさ、みぃもいつかは恋人ができるんだよね。」
なんで、こんなことを口走ったんだろう。
自分でもよくわからない。
「なんで、そんなに悲しそうなの?」
振り返って、驚いたように僕の目を見るみぃを見て、言葉が出なくなる。
なんでなんだろう。
よくわからない。
「わからないよ。気のせいじゃないかな?」
「そんなわけ、ない。ずっと一緒にいたんだから、それくらい、わかるよ」
口を開けて反論しようとするが、驚くほど何も言えない。
みぃは何も間違えたことは言っていないから。
ただ、いろいろな言葉がぐるぐると回ってわからなくなる。
「みぃも、彼氏とか、他に頼れる人を作りなよ。僕たちは、ずっと一緒にいれるわけじゃないんだからさ」
口をついて出た言葉。
言ってしまった後に、ハッと気がつく。
何を、言っているんだろう。
「な、なんで……?」
「それはそうだよ。みぃだって、僕以外に頼れる人を作らないと。
いつかは、誰かと結婚するだろうしさ、そうなったら、こんな関係もなくなるんだし」
なんで、こんなことを言っているんだろう。
一度蓋が開いたものを抑えることはできなかった。
わかってる。もう嫌だったんだ。これ以上近くにはいけないのに、みぃが近くにいることが。
辛かったんだ。いつか離れていくはずのみぃを見ているのが。
でも、こんなことが言いたかったんじゃないのに……
「……神様、どうして?
どうして……」
目に涙を浮かべながら呟くみぃに、何も言えなくなって、思わず手を離した。
するとみぃは、一瞬だけ目を見開いて、目に溜めた涙を落とす。
みぃが手に持っていたカバンが、地面に落ちて、数冊のノートが開いていたカバンから出る。
「っ!!」
弾かれたように、みぃは何処かへ走っていく。
止めなくちゃ。
そう思って動こうとするのを、何かが止める。
よかったじゃん。僕に依存しなくなるのが、みぃのためだよ。
何かがそう呟いた気がした。
みぃが走り去って言った方向には、憎いほど綺麗な夕日が落ちていた。
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