シーン2-1





「リア充爆発しろ。」


そう言う友人、石上いしがみ太刀たちの目から放たれる謎の威圧感に押されながら、僕は苦笑を浮かべる。


「何かあったの?」

「友人が学校一の美少女、月長さんとイチャイチャしてた」

「あはは……実はその二人、付き合ってないらしいよ?」

「本当に頭おかしいよな、津雲つくもじんってやつ」

「確かに、一緒に登校しておいて付き合ってないとか頭おかし……って、本人に何言わせてんの?」

「いや、お前頭おかしいだろ。どう見たって両思いじゃねえか。」


そう言われて、

僕は思わず前の席をちらりと見る。

そこはみぃの席なのだが、今はトイレに行っているらしく、そこにはいない。


……僕とみぃが両思い。

よく言われるし、確かに周りから見ればそう見えるのだろう。

でも……



「近すぎるんだよ」



ポツリと思わず口から漏れるその言葉は、紛れもなく本心の一端だった。


「距離がか?それとも、他の何かか?」

「心の距離だよ。この場所は暖かいんだ」


恋人になれば、いろいろなことができるし、恋人になりたいという願望もある。

ただ、今僕がいる場所は暖かすぎるんだ。だから、動こうと思えない。

もう一歩でも近づけば、自分の中の醜い部分まで見せてしまいそうで。

臆病な、心の内を。


「それに、僕は、みぃを自分のために縛りたくない」

「それって、恋人になるのが縛りになるって言いたいのか?」

「うん。幼馴染でいれば、みぃは他の人と恋人になったりできる。でも、恋人になってしまったら、みぃは僕以外を作れなくなる」

「いや、だって、両思いなんだからそんな心配いらないだろう?」

「いや……僕の一歩的な片思いだよ」

「いや、それはな……」

「はい。みぃが帰ってきたからこの話題はおしまい」


教室の前の扉から、みぃが入ってきた。


……みぃが僕に対して抱いているのは恋愛感情じゃない。

みぃにとっての僕は、依存する対象だ。

何かあったら守ってくれる存在に、頼るものがなくなったみぃが依存するのは当然のこと。

だって、他に頼るものがないんだから。

だから、僕は告白できない。

告白したら、みぃは『依存対象に嫌われないため』に告白を受けるだろうから。

そんなの、嫌だ。


「神様?」


そんな澄んだ声がして、僕ははっとなる。


「みぃ、どうかした?」

「なんか、酷い顔してたから」

「ごめんごめん。考え事してた」


淀みがないその瞳に見つめられると、自分が恥ずかしくなる。

わかってはいるんだ。本当に縛りたくないんなら、高校に通うためにマンションを借りて二人暮らしをしているのはおかしいって。

僕は、いろいろ言い訳しつつも、自分のためにみぃをそばに置きたいだけなんだって、わかってはいるんだ。

でも……



「ほんと?」



その澄んだ声と、瞳と、心が

みぃのことが、ただ



「うん。本当」




好きすぎて。


泥沼に嵌っているんだ。もがけばもがくほどにわからなくなる、泥沼に。


みぃが好きだから縛ってしまいたい自分と、好きだから縛りたくない自分。


好きっていう気持ちだけで、こんなにも苦しい。


みぃ、やっぱり僕は神様なんかじゃないよ。

だって、どうすればいいのかわからないんだもん。



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