夏祭り



「大丈夫? どこかきつかったり緩かったりしない?」

「大丈夫。いい感じ」

「ならよかった――じゃ、これで終わりっと」


 神様はそう言うと、数歩引いてボクの体をじぃっと見る。

 満足したようにこくりと頷くと、「似合ってる」と言ってくれる。


「うん。ありがとう。神様も浴衣にあってる」

「ならよかった。わざわざ実家から持ってきた甲斐があったね」


 そう、ボクたちは今浴衣に着替えていた。

 近くで夏祭りが開催されると聞いて、せっかくだから行こうという話になったのだが、ボクが浴衣を着てみたいと言ったらすぐに用意してくれたのだ。


「じゃ、行こうか」

「うん」


 二人で手を繋いで家を出る。二人とも慣れない下駄(本格的な木のやつじゃなくて、軽いやつ)を履いているから、自然と歩く速度はいつもよりもゆっくりになる。

 だから、自然と話が盛り上がる。

 でも、時々話が頭に入ってこないこともあった。

 だって――浴衣の神様、かっこいい。


「みぃ? どうしたの?」

「あ、ううん。なんでもない」


 いけない。見惚れてた。

 普段の神様ももちろんかっこいいけど、たまに見るいつもと違う神様もかっこいい。

 今日が終わったら暫く見れないと思うと、自然と目がそっちへ吸い寄せられてしまう。


「っと、あぶない」


 祭りの会場に近づくとだいぶ人も増えてきて、横を見ながら歩いていたボクは危うく人にぶつかりそうになった。

 それを、ボクを抱き寄せて回避する神様。


「ありがと」

「どういたしまして。気を付けてね?」

「うん。そうする」


 あんまり神様の方ばかり見てると前が見えなくなって危ないので、ちゃんと他のところも見ながら神様も見ることにする。


「ほら、りんご飴売ってるよ。買う?」

「買う」


 神様がりんご飴を指さしてそう尋ねてきたので、頷いて返す。

 昔から神様と祭りに来るとりんご飴を買うのが定番だった。

 小さい頃は全然食べきれなくて、神様と分け合うのが普通だった。

 大きくなった今なら一人で全部食べられるけど、なんとなく分け合うのが当たり前になっている。

 一口目はいつも神様から。りんご飴って固くて、一口目が一番食べにくいって話をしたら、いつからかそういう習慣がついた。

 神様が食べたところから、二口目、三口目と食べ進んでいき、ある程度食べたら神様に渡す。

 飴がパキ、と音を立てて砕ける音が少しだけ聞こえてきて、夏だなと感じる。


「夏だねぇ」


 神様も同じことを思ったのか、りんご飴をボクに渡しながら、しみじみとそう言う。


「うん。夏休みずっとクーラーの効いた家に居たから全然実感わかなかったけど」

「わざわざ暑い中、外に出なくてもいいかなって思っちゃうよね。みぃと一緒だと家に居ても退屈しないし」

「一緒にいるだけで幸せ」

「僕もだよ」


 そんな話をしているとりんご飴を食べ終わったので、ゴミ箱を探してそこにゴミを入れる。

 その後も射的や型抜き、くじ引きなどを楽しんでいると、いつの間にか花火が始まる時間になった。

 花火が見やすい場所は取られてしまっているが、別に少しでも見えればいい。

 二人で道の隅に並んで、大きな音を立てて弾ける花火を眺める。


「おー、綺麗。すごいね、みぃ」

「うん。すごい」


 ――神様が。

 そう続きそうになった言葉を呑み込んで、目線を上の花火に向ける――けど、すぐに隣に居る男の子の横顔に移ってしまう。

 花火の光がいい感じで、かっこいい。綺麗。

 ぼー、と眺めているとさすがに神様も気が付いたのだろう。少し恥ずかしそうに頬を掻いてから、ボクのことを見返してくる。


「みぃのほうが花火より綺麗だよ」

「ボクより神様のほうが綺麗」

「そんなことないと思うけど」


 そんなことあるんだよ。だってボクの神様なんだから、一番に決まってるじゃん。


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美少女幼馴染に神様と呼ばれている僕と、その幼馴染のボク 海ノ10 @umino10

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