れっつ料理!



魔法のようなその手つきに、ボクは思わず目を奪われる。

タッタッタッとリズムよく動くその包丁は、野菜を同じサイズに切っていく。


「と、こんな感じかな?」


半分ほど切り終わったところで、神様は野菜を切る手を止めてボクにそう問いかける。


今は、前から神様に頼んでた料理を教わる時間。

この前作ったハンバーグは、神様からすると入門編クリアのレベルだったようで、今日は和食にチャレンジしている。

もちろん、神様に教わってるけど。


「やってみて?」

「わかった」


ボクは神様から包丁を受け取ると、慎重に野菜を切っていく。

まだ包丁で怪我はしてないけど、指を切ったりしたら痛いじゃ済まないから、気をつける。


「こう?」

「そうそう。やっぱりみぃは器用だね。全部切っちゃっていいよ」


神様はそう言うと、冷蔵庫から他の食材をいくつか出して、もう一本出した包丁でいい感じに切っていく。

その手際は本当によく、ボクからしたらプロと同じくらい早いように見える。


神様に意識を奪われた瞬間、ボクの左手の指を痛みが襲った。


「痛っ!」


想定外の痛みに、そんな声が漏れてしまう。

どうもどうやら包丁で切っちゃったみたい。

少し血が出ていて、当然だけど切った痛みもする。

ボクは包丁を置くと、右手で左手を抑えた。


「みぃ!?大丈夫!?」


本気の心配の声とともに、包丁や野菜などのものを置いてボクの手を取る神様。

傷が見えやすいように右手をどかすと、思った以上に血が出てきていた。


「大丈夫……じゃなさそうだね」

「うん。でも、たぶん舐めておけば治る」

「いや、ちゃんと手当てするよ。救急箱持っていくから、少し待ってて?」


そう言うと、神様はボクの左手の傷をペロッと舐めた後、リビングの方に救急箱を取りに行った。

傷口を舐めるのは、ボクが神様と会った頃からやっていたので、今更恥ずかしがったりはしない。


「はい、持ってきたよ。左手だして」


神様に言われた通りに左手を出すと、神様は慣れた手つきで消毒をして絆創膏を貼る。

そういえば、昔もよく神様に手当てしてもらってた気がするな。


「はい、終わり」


シワの一つもなく綺麗に絆創膏を貼った神様はそう言うと、ボクの頭を一度撫でた後で救急箱をリビングに戻した。


「みぃ、料理続ける?あとは僕してもいいけど」

「ん……する」


どうせここまで作ったんだから、ちゃんと最後まで作ってしまいたい。

それに、せっかく料理中の神様を間近で見れるチャンスだもん。


あ、でも手元には気をつけないと。


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