第21話 想い
ミナミコウフサービスエリアに数日滞在することになった。
カミクの集落から帰った夜、ナツさんが二人だけで話したいと言ってきた。
書斎で話すことにした。
「タカシさん。今日は申し訳ありませんでした」
「あ、医療施設でのことですか?」
「はい。ご迷惑を掛けました。いろいろな理不尽なことに我を忘れてしまいました」
「うーん、規則は厄介ですよね。今までにナツさんも何かあったのですね」
「はい。私もユミ同様に公爵でした。ミノ王国では16歳になると王女や王子は公爵になり学校に行きながらでも政治に関与することになっています。私は飛び級によって15歳で全過程を終了して卒業していましたが」
「優秀なのですね」
「ありがとうございます。公爵をしていて思ったのは本人に非がないのに借金の払えなくなって罰を受ける人たちがいるということです。あまりに理不尽ではありませんか。人権を無視していると言ってもいいと感じます。もう少し猶予を与え、行政が援助をすることはできないのでしょうか。私もそこを何とかしようとしたのですが駄目でした」
「具体的には?」
「借金があっても借金を犯罪とみなさず半年の猶予を与えることや国が公的に借金を肩代わりする事、そして生活助成です。しかし今のルールは世界連邦の統一基準ですので一国ではどうしようもないのです。確かに貧困な人たちが無用に搾取されないようにしているのはわかりますが少しの借金がいつまでも記録に残り社会的に差別されるのには怒りを覚えます。公爵として政治に限界を感じた私は神殿に入りせめて貧困な人たちの治療活動に力を尽くそうと考えたのですが、治療院の営業を妨害しているとか批判されてしまいました」
「それで」
「はい、でも今回タカシ様は彼らを助けてくださいました」
「偶然ですよ。できることをやっただけです。諦めずに一緒に頑張りましょう」
「はい」
翌日も天気がよかった。
ここに滞在するなら折角だから観光でもしよう。
ということで出かけようとしたときサカイガワ子爵から屋敷に来るようにと連絡があった。
早速サカイガワ子爵を訪ねる。
自分たちのミスをすぐに認め、適切な処置を行う彼を気に入った。
「タカシ様。昨日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそいろいろと失礼しました」
「今日もこちらにおいでいただきありがとうございます。実はタカシ様にご相談したいことがあり、こうして来ていただきました」
「相談ですか」
「はい、その前にタカシ様が『賢者のハイウェイ』をどのように活用しようと考え
ているのかその想いをお聞かせいただけないでしょうか」
「やはり人の輸送をできるようにしたいですね」
「そうですか。実はお願いというのはそのモデル事業をカミクの集落で行っていただけないかということなのです。今回の事でも孤立している集落の危うさを改めて感じました。『賢者のハイウェイ』を悪用されないように考えて今の規則や制度があるのは理解しております。しかしこのままではまずいのではないかと思います。これは『賢者システム』にとっても重要な事だと思います」
「同感です。私はハイウェイバスを運行したいと思っています。一般車両の乗り入れは今のまま制限するにしても孤立地区の連絡手段や遠距離の交通手段としての『賢者のハイウェイ』を活用はありだと思います。それから救急車などの緊急車両の通行を考えるべきかと思います」
「それはいいですね。もしかしたらそれをカミクの集落で行えるように考えて別荘を建てたのですか」
「どうでしょう」
「策士ですね」
「まさか」
「ではついでと言っては何ですが、もしここでモデル事業を行うとなればこのカイ王国との交渉も必要になるでしょう。事前にこの国の首脳部と私の知人か友人ということで会ってみませんか。『賢者システム』の代表でとなると本部との関係もあるでしょうから私の友人ということでいかがでしょうか」
「私をサカイガワ子爵の友人にしてくれるのですか」
「タカシ様さえよければ。私は貴方と友人になりたいと思っていますよ」
「こちらこそ喜んであなたの友人になりますよ」
「では明日の午前中にカイ王国首都コウフに行きたいと思いますがいかがでしょうか」
「よろしくお願いします」
サカイガワ子爵と握手をして彼と友人となった。
彼とは大事な友人として長く付き合っていくことになるのだがそれをこの時まだ知らないことだった。
その日はミナミコウフの街を歩いたり果樹園を見学したりして時間を過ごした。
街は治安もよく、それでいて活気がある。
サカイガワ子爵がうまく統治しているのが分かる。
このあたりは桃やブドウが美味しいと教えてもらいでかける。
結界で守られている果樹園には桃が生っていた。
美味しい桃を楽しみ、ミナミコウフサービスエリアに戻り夜を過ごした。
翌日はサカイガワ子爵の屋敷に行き、そこから子爵所有の魔力車で首都コウフの王宮に行くことになっている。
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