第10話 フジエダ
草原の中の道はハイウェイと並行して続いていた。
アスファルトやコンクリートの舗装はされていないように見えるが轍ができていない。
魔法が施されているからだという。
便利だよね、魔法って。
今通行しているこの道はハイウェイの側道で副結界の中にあるから魔物などに襲われる心配がないということだ。
片側1車線ずつの道だ。
ゆったりした幅のある道だね。
この世界でも車両は左通行だ。
少し離れた森には見たことのないよう猪や兎の姿が見えた。
中には近づいて来るものもいたが途中で進めなくなっている。
副結界に阻まれているようだ。
(そうか、あれが魔物か)
角を生やした兎なんて初めて見たよ。
それも大きいよね。
20分ぐらい魔力車で西に向かって走るとインターチェンジが見えてきた。
各インターチェンジには必ずサービスエリアかパーキングエリアが併設されているという。
このフジエダインターチェンジに併設されているのはパーキングエリアだった。
フジエダインターチェンジからは側道から離れて南に進む。
交差点には信号があったよ。
5分ぐらいで街並みが見えてきた。
「さあ、フジエダに着きましたよ」
フジエダは2mぐらいの柵に囲まれた町だった。
この柵には副結界が施されているのだという。
フジエダインターチェンジからここまでの道にも副結界は施されている。
門は南北に1か所ずつ。
人口は7000人程度だという話だった。
私たちの向かった門は北門だ。
南門の前には副結界で守られた主要街道が通っているらしい。
門では簡単に身分証の確認があった。
私たちは乗車したままの確認だった。
普通の場合、運転手以外は下車するらしい。
このような優遇は『賢者システム』の車だというのが影響しているようだ。
町の中の主な道は車道と歩道とその間に自転車道があった。
「自転車は自転車道を魔動自転車は車道を走ります」
魔動自転車って原付のようなものかな。
「運転免許とかもあるのですか」
「運転をする人は自転車も含めて原則教習を受けます。身分証に運転の許可されている乗り物が記録されています。タカシさんは元いた世界で運転免許証を持っていましたの陸上のすべての乗り物の運転が許可されています」
「それでいいのですか」
「大丈夫ですよ」
大型トラックとか運転できちゃうのかな。
普通免許しか持っていないけど。
交通規則は元の世界の日本と全世界で同じだという。
魔力車は1軒の商店の前に停まった。
「ここは『賢者システム』の経営する商店です。ここに車を停めて町の中を見に行きましょう」
車を停めた後、商店の中を見てみる。
外部ゾーンに比べて品揃えは少ないな。
輸送の関係や他の商店の経営を圧迫しないようにするということらしい。
そして町中へ。
(住宅街は普通だな)
住宅は元の世界の住宅展示場で見るような感じの住宅だった。
量産型という感じか。
商店もその住宅を改良した感じだった。
集合住宅もある。
どの建物も3階建てまでだったが。
「建造物のほとんど『賢者システム』が作ったキットを現地で組み立てる方法で建てられています。キットの種類は1200種類あります。中にはオリジナルで建てたいという注文もありますがその時は特別対応です」
役場も見学した。
元の世界のようにコンピュータはなかった。
その代わり、魔道具が活躍している。
タブレットの様な魔道具が多い。
印刷機やコピー機も魔道具だそうだ。
様々な商店を覗き、町の中心にあるカフェに入った。
内装には木を多用してあり落ち着いた雰囲気だ。
コーヒーとフルーツタルトを注文する。
オートマタであるミオさんとハルさんも同じものを食べている。
オートマタなのにこういう事も楽しめるっていいことだよね。
味もわかるっていうからすごいよ。
ここのフルーツタルトは外せないと言っている。
さらにそれぞれに好みがあるということだ。
ミオさんの好物は鰻、ハルさんはいくら丼だという。
賢者様は人間らしくオートマタをつくりたかったようだ。
ところでこの店に入ってからずーと視線を感じるんだが。
「タカシさん。見られていますね」
「確かに視線を感じるのですが」
「鑑定をされています」
「それって勝手にやっていいんですか」
「マナー的には褒められたものではありませんが法律的には問題ありません。鑑定をできる高位の魔術師は数が少ないのです。普通は魔道具で鑑定を行います」
「個人情報とか」
「それは『賢者システム』ぐらいしかそういうことは重視していませんね。それも自主規制です。鑑定されたくなければ阻害の魔道具を持ちます。鑑定のできるような高位の魔術師は特権階級ですから勝手に鑑定してもいいのですよ」
「私も阻害の魔道具を持ちたかった」
「すみません。フジエダには高位の魔術師はいなかったはずなのに」
コツコツコツ。
視線の主がこちらに近づいて来た。
ヒールのある靴の音だね。
女性か?
いやな予感しかしないので無視しよう。
そして止まったようだ。
私のテーブルの横で。
「貴方、私の部下になりなさい!」
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