第5話 旅立ちの準備(2)

「こんないい部屋に泊まっていいんですか」

「はい問題ありません」

「宿泊費ははいくらですか。私の持っているお金は私の世界のものですが」

「必要ありません。タカシさんはこのシステムの管理者ですから。お金の問題は複雑で説明に時間がかかりますから明日にしましょう。お疲れでしょ。兎に角今日はご心配なくと伝えておきます」

「わかりました。おやすみなさい」

「おやすみなさい」


特別室には広いリビング、キッチン、ダイニング、書斎とバストイレがある。

寝室はツインの部屋が3つ。

3LDKという感じだ。

家具もそろっており物入れもある。

窓から見ると遠くに民家の明かりらしい光がちらほらと見えた。

空には星が見える。

私の世界でもなじみ深い星たちが見えている。

天の川もくっきりと見えるね。

風呂も広かった。

これなら一度に4人ぐらいは入れるよね。

横になったらすぐに寝てしまった。

疲れているんだな。


   ◇       ◇       ◇


電話の音で目が覚めた。

昨日の事は夢?

違うなこの部屋は昨日泊った特別室だ。

電話に出ないと。


「タカシさん。おはようございます。朝食の準備ができています」


スズさんからだった。


「はい、わかりました」

「では食堂でお待ちしています」




食堂に行くスズさんが待っていた。

横には小柄な女性が座っている。

黒髪ショートカット、細目だ。


「おはようございます、スズさん。そちらは?」

「改めておはようございます。こちらはミオさんです。もちろんオートマタです。これからタカシさんのお世話を担当します」

「ミオです。よろしくお願いします」

「タカシです。こちらこそよろしくお願いします」


朝食は日本の朝食+α。

ご飯と焼き鮭。

納豆と生卵と海苔とふりかけ。

豆腐の味噌汁と蒲鉾とお新香。

ワサビ漬けとブルーベリー入りヨーグルト。

日本茶とコーヒー。


朝食後、ミオさんに様々な事を特別室の書斎で教えてもらった。


「まずお金関係ですが、私たちの所属する組織『賢者システム』からは組織に所属するオートマタや人間に給与が支払われています。組織に所属する人間というのは外部ゾーンの銀行や売店などで働いている人たちです」

「オートマタの皆さんの給与をもらっているのですね」

「オートマタにも感情を持たせたのは賢者様です。そしてオートマタも楽しい生活を送れるようにしてくださいました」

「そうなのですか」

「そこで各地のシステムのメンテナンスに出かけられるタカシさんには給与と必要経費と配当が支払われます。また、『賢者システム』からタカシさんの元の世界の会社の方へ出向依頼費を支払っておりますので元の世界でもしっかりと給与や手当が支払われているはずです」

「向こうのに『賢者システム』の資産があるということですか」

「はい、そういうことです。それから賢者様の遺産は全てタカシ様が相続されます」

「い、遺産ですか」

「はい、『賢者システム』の所有管理権、この管理所有権に関してタカシさんに配当が生じます。現金、不動産等の所有権、動産の所有権です。この世界には相続税はありませんからご安心ください。現金は身分証明書の口座に入っています。給与や配当もその口座に入れられます」

「口座からATMでお金を出していろいろと支払うのですよね」

「はい、それ以外に口座から直接支払える商店等も増えています」

「デビットカードみたいにですか」

「はい、タカシさんの世界ではそういうのでしたね。こちらではシステムカードでの支払いというふうに言います。こちらがタカシさんのシステムカードです。認証は右手の掌です。サービスエリア等『賢者システム』が関係するところですべてで使えます。ですが町や村に行くと使えるところは6割程度ですね」

「現金も持っていた方がいいということですか」

「はいそうなります。サービスエリアとパーキングエリアは多く存在しますから車があればそこのATMで現金はすぐに手に入りますよ」

「そういえばサービスエリアとパーキングエリアではどのように違いますか」

「はい、この世界のパーキングエリアをここと比較してみましょう。パーキングエリアの場合、外部ゾーンに銀行がありません。内部ゾーンには宿泊施設と給油所と給電所とオートマタ修理工場がありません。外向けにはそうなっています」

「外向けですか?」

「はい、重要なのはこのシステムを動かすための大事な設備がないのです。タカシさんにはこの大事な設備のメンテナンスをしていただきたいのです」

「大事な設備というのは何なのですか」

「それは後程、実際に見ていただきます。メンテナンスの内容についてもその時にお話しします」

「わかりました。各施設の営業時間を教えてもらえますか」


営業時間はこうだった。

外部ゾーン

 銀行   毎日9時から18時

 商店   毎日7時から19時 自動販売機24時間営業

 食堂   毎日5時から22時

 買取   毎日7時から19時

 荷物発送 毎日5時から22時

 駐車場とトイレは24時間使用可能

 ATMは24時間営業

内部ゾーン24時間営業


「ところで賢者の資産ですが各サービスエリアの特別室は賢者の所有物です。ですから宿泊費はかかりません。食事や給油や給電や給魔力は必要経費ですのでこちらの必要経費用のシステムカードで支払います。町や村で宿泊する時も必要経費になります」

「いいのですか、そこまで必要経費にしても」

「はい、タカシさんは観光しながらシステムをメンテナンスしていくのがお仕事です。この世界を知っていくこともお仕事ですので大丈夫です。報告書は助手の私が作ります。わからなければ私がご助言いたします」


その後、書斎のパソコンで口座の残高を確認した。

そこに表示された額は国家予算規模だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る