賢者のハイウェイ

TKSZ

第1話 トンネルを抜けたら

私は今、不安に押しつぶされそうだ。

私の運転している車はすでに30分もトンネル内を走っている。

確かにこのトンネルは長かったよ。

4500mあまりのこのトンネルはこの高速道路で2番目に長かったはずだ。

車は時速80km。

私の車はこのくらいで走ると燃費がいい。

しかし、この速度で30分。

40kmは走っているはずだ。

富士川を渡った時に前後にいた車もいつの間にかいなくなっている。

昼間のこの時間なのに他の車はいない。

私は今、西に向かっている。

浜松で依頼された仕事を片付け1泊。

それから名古屋方面に向かう予定だ。

仕事は環境調査や自然観察の講習会も行っている。

名古屋での仕事の後は長野の山の中で星の観察会を友人と行う約束になっている。

これは知り合いのペンションのオーナーに頼まれた仕事だ。

車には様々な調査用の機材が乗っている。

データの解析を行う機器もある。

専用の発電機もあり調査や解析用のパソコンにも電気を供給することができる。

そしてこの車はキャンピングカーとしての機能も持っている。

ベットもあり、キッチンもある。

車に泊まって仕事ができる。


しかしいつになったら出るんだよ、このトンネル。

これは夢なのか。

それなら早く覚めて欲しい。

まさか私は気が付かないうちに死んでしまったのか。

ハンドルを握る掌には嫌な汗が噴き出してきた。

その時、やっとトンネルの出口が見えてきた。

溜息をつく。

自然にアクセルを強く踏んでしまう。

清水にあるパーキングエリアで休もう。

トンネルから出られる喜びで40km以上入っていたのを忘れてしまっていた。

そう思ったのに・・・・・。

道は草原の中の高架橋を走っている。

トンネルを抜けると山間だったはずなのに。

高速道路は高架になっているから眺めがいいのに民家は見当たらない。

見える範囲には町がない。

上り線の通る車がいない。

ここはどこだ。

カーナビがおかしい。

GPSが使えていない。

カーナビが当てにならないよ。

この道路に案内表示もないのか。

いや、あったこの先にサービスエリアがある。

あと2km。

不安と期待が混在する中、本線を出てサービスエリアの駐車場に向かう。

駐車場に車が数台あるね。

人の姿はない。

心の中がざわめく。

何だろうこの不安は。

車を停めてまずはトイレへ。

手を洗い、嫌な汗も取り除いた。

トイレを出たところに冷水器もあるな。

口を潤してから売店の方へ向かう。

あ、やっと人の姿が見えた。

売店に近づいて行く。

商品が少ないな。

他に客はいないようだね。

従業員が6人ぐらいか。

そう思ったが従業員がこちらを向いた瞬間、私は固まってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る