第10話 萌え燃えアイスメルト

影雪とコーンのデートをこっそりと尾行している私とバニラ。

バニラと私は目深の防止にサングラスと下手をすれば事情聴取を聞かれそうになるくらい怪しい格好になっているが、バニラは気にしていない様子だ。


私とバニラはこっそりと物陰から二人を見守ることにした。


「ここは…なんなのじゃ…?」

「…?雑貨屋だが…?」


影雪とコーンが最初に訪れたのは雑貨屋だった。

そういえば…影雪はこの前「本立てを買いたい」と言っていた。影雪はこのデートで買い物を済まそうとしているようだ。


「ざっか…?」


コーンは雑貨というものが分かっていないようだ。


「お前も何か買ったらどうだ?」


影雪はデートだというのにコーンに冷たい態度だった。


「……………そうじゃな……」


コーンは寂しそうにしながら店の棚を物色し、雪の結晶柄のティーカップを手に取った。


すると、


「雪の結晶!ゆーちゃんみたい!!」


尾行していたバニラ急にが私の肩に手を掛けながら立ち上がった。

力の入ったバニラの手が食い込んでメッチャ痛い。


「バニラさん静かに。あと痛い。」

「ご…ごめん…リナちゃん…」


私に怒られ、バニラはしゅんとしながら座り込んだ。

そして、いつ買ったのか分からないが、串唐揚げを「肉屋のキュウ」と印刷されている袋から取りだし、ハフハフと美味しそうに食べ始めた。


「リナちゃんも食べる?」

「いいの…?ありがと…」


私はバニラ差し出された唐揚げを食べながらコーンを見ると、コーンは雪の結晶柄のティーカップを眺め、「フフッ」っと笑っていた。


* * *


時刻12時。


そろそろお昼ごはんの時間である。


「少しお腹が減ったな…何か食べに行くか…」

「!!それなら儂が行きたいところがあるのじゃ!!」


コーンは影雪の手を握って駆け出した。


…スタスタと影雪の手を引いて歩いていたコーンだが、ある店の目の前でピタリと止まると、影雪はコーンにぶつかって「ぷあっ!?」と声を漏らした。


「ここは…?…メイド…カフェ…?」


影雪は少し戸惑いながらメイドカフェのキラキラした看板を見ていた。


「この世界は「メイド」というのが有名らしいのじゃ!!さぁ、雪!!早速入ろうぞ!!」

「ちょっ…!?」


コーンは影雪の手を引っ張り、メイドカフェへ入店した。


「「いらっしゃいませお嬢様ー!!」」


…某電気ネズミのなんとかボルトに匹敵するくらいお決まりであるメイドカフェ店員達の台詞で歓迎を受けた。そして、影雪はかなり戸惑いながら、コーンはワクワクしながら案内された席へと向かい、腰を下ろした。

私達も後を追って入店し、同じくお決まりの歓迎を受けながら席へと案内された。


…丁度影雪とコーンの席から一つ空いた席に。


…ヤバイ…いくら変装してるとはいえ、この距離はマズイ…入るの失敗したかな…?


「ご注文は何になさいますか~?」


元気そうなメイドさんが注文を聞きに来た。元気だなぁと思い、胸元にある名札を見てみると『ミィル』と書かれていた。


「えっと…この…『メイドさんの萌え萌えギガオムライス』というのを…」

「あ…なら…儂もそれにするのじゃ」


影雪はメニュー表を凝視しながらオムライスを注文し、コーンもそれに続くように注文をした。


「ご注文承りました!!お嬢様方、しばらくお待ちください!!」


元気なメイド店員が元気に注文を受け、元気にキッチンへと向かい、席には影雪とコーンが向かい合わせになっている状態になっていた。

…私は、バニラが『ご飯を注文した後の待ち時間は二人で話すチャンスだよ~!!』とアドバイスしていたことを思い出していた。


バニラはこういう色恋事には敏感…というか得意なのだろうか…?


…当の本人バニラは……


「え~と、『メイドさん特性バナナオレ』~!!」

「お~!!このメイド服可愛い~!!」

「バナナオレうまーーい!!」


…尾行そっちのけでメイドカフェを満喫しまくっているが。


「バニラさん…静かにしないとバレちゃうよ…!!」

「むみゃ?…んっ…ごめんリナちゃん…」


バニラはバナナオレを飲み込んで声を潜め、何とかバレないようにしたが…


「バレているが?バニラ、リナさん。」

「え…リナと…白髪の娘…!?」


…そりゃ至近距離であんな大声聞いたらバレるよな……


「…影雪さん、コーンさん、邪魔してゴメンね…聞こえてたよね…」


「ああ、全部聞こえてた。デート前の時からな。」


デートの……?


「…!!もしかしてあの時…眠らされてなかったの!?」

「…ああ。私は何度もアイツのイタズラに付き合ってきたのだぞ?次にどんなことをしてくるかぐらい予想がつく。」


…影雪は話を続けた。


「それに…コイツは…コーンは、こう見えて真面目なヤツだ。『この世界で魔法少女や人を傷付けてはならない』ということは分かっている。それなら私に仕掛けるのは…『効果範囲が部屋の中で、そして魔法少女だけに効く殺傷性の無い気化型睡眠薬』…という考えに至る訳だ。」


…完全正解。


…ということは…影雪は『デート作戦のことを知らないふりをしていた』ということか…


……あれ…?全部聞いていたってことは……


「聞いてたってコーンさんが影雪さんの事好きなことも…?」

「……………」


影雪は返答の代わりに頬を赤くしながら頷いた。

…その反応にコーンも顔を赤くし、視線を影雪から背けていた。


「何度もイタズラに付き合っている内にまさかなとは思っていた。それが今日確信に変わってしまったな…」


ここまで来たら遠慮なんかしない。かなり無理矢理なことは自分でも分かっていたが、私は影雪を問い詰めた。


「影雪さんはコーンさんの事…好きじゃないの…?」


「………き…嫌いでは…ない……」


影雪は赤くしていた顔を更に赤くして、少し涙目で話していた。

ポタポタと音がしたので影雪の頭を見ていると、かなり恥ずかしかったのか、頭に飾られている氷の髪飾りが少しずつ溶け始めていた。


すると、


「メイドさんの萌え萌えギガオムライスお待たせしました~!!ってあれ?四人に増えてる…?」


丁度ミィルといったメイドさんが注文していたオムライスを運んで…って……


「デカっ!?」


運ばれてきたオムライスは、私の想像していたオムライスよりも少し…いや、かなり巨大なサイズだった。


「ギガオムライスですからね~!こちらのオムライス一つで、通常サイズの二つ分となります!!」


…マジか。


「いくら儂でも…こんな量食べきれぬ…」


コーンが困り顔になっていると…


「何を言っている?オムライス二つで四人分なら、丁度足りるではないか。」


影雪がニヤリとして言った。


「影雪さん…もしかして私達が尾行してるの分かってて…」

「……さぁ?」


…私と影雪が話していると、元気なメイドさんが…


「…お嬢様方!!お召し上がりになる前に…私が愛情を込めまーす!!お嬢様方も一緒に…萌え萌え…!」


「「「「キューーーーーン!!!」」」」

「キュ……キューン………」


影雪は恥ずかしがってあまりキューンとは言わなかった。


……そんな訳で、私達は無事オムライスを食べきり、ついでに「キューン」とあまり言えなかったのでメイド服を着ることになった影雪と一緒に写真撮影をして、皆の買い物を済ませて、笑顔のまま家に帰ることとなった。


* * *


「私、今日は楽しかったよーーーー!!!」

「バニラさんメイドカフェ楽しんでたよね…」

「うん!萌え萌えキューーーン!!!」


そんな事を話しながら私達が家に帰る途中、影雪はコーンに話しかけた。


「コーン、少し私から提案がある。…乗るかはお前次第だが…」

「………?」


* * *


影雪とコーンのデートから数日経った。


「ただいま~」


私は学校から帰り、玄関の扉を開けると…


「お帰りなさいませじゃ。主(あるじ)様。」


玄関の扉の向こうには、コーンがニッコリとしながら立っていた。


…影雪がコーンに提案したこと。それは、コーンを「魔法少女メイド」としてこの家で働かせるということだった。これなら『コーンは影雪と一緒にいられて』、『コーンも働くことが出来て強制送還は無くなる』。影雪らしい一石二鳥の提案だった。


いつもの巫女服にエプロンを付け、魔法少女メイドとなったコーンは「今日はカレーじゃ楽しみにしておれ」と言いながら、私を家へ入れ、玄関の扉を閉めた。


「よかったね。コーンさん。」

「うむ…感謝する…」

「…でもよかったの…?影雪さんに告白しないで…」


私はコーンに聞いてみた。すると、


「雪は『嫌いではない』と言ってくれたのじゃ。それに…あの時の話を聞かれているということは、雪は儂の気持ちを分かってくれたと儂は思っている…儂をメイドとして働かせてくれたのは…雪なりの優しさなのじゃよ。」


そう言って、再びニコリとした。


…そんな訳で、私の水無月家に『魔法少女メイドのコーン・コバルト』が居候することとなった。

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