第8話 こん紺コーン

影雪の先輩さんから入った緊急メール。

その内容は「不法入国した魔法少女を捕まえてほしい」というものだった。

何故不法入国したかとか色々と気になるが、それはその魔法少女に聞かないと分からない。

そんなことを考えながら私は影雪と情報が来るのを待っていた。


…すると、影雪はトテトテと家の電話の方へと移動し始めた。


電話…?何で…?


「あの、影雪さ…」

私が影雪に声をかけようとしたときだった。


『ピーー。ファックスヲウケトリマシタ』


…まさかのファックス。


何故ファックスで書類を送るのか…端末があるならメールで送ればいいものを…その前に何故私の家の電話と魔法の国が繋がっているのだ…

私が色々と考えているとファックスからは不法入国魔法少女と思われる魔法少女の顔がプリントされている書類が顔を出した。


「…やっぱりコイツか……」


影雪は書類を見るなりそう呟いた。


「知り合いなの?」

「ああ…コイツは『コーン・コバルト』。今までも何度かイタズラを起こしてきた厄介者なんだ…私が何度かコイツを取り締まったのだが…懲りてないようだな…」

「へぇ…その子凄いね…」


影雪は「イタズラ好きなだけで悪いやつではないのだぞ」と補足を付け加え、書類を持って玄関へと向かった。

その間、影雪が先輩さんに『今から捜査を開始します』と連絡すると、『安全第一でお願いしますね』とすぐに返信が来た。


* * *


「さて」


影雪は玄関を出るやいなや書類を地面に置いた。

そして、魔法を発動したのだろうか。影雪が手組み合わせて力を加えると、書類が浮き上がり、下から黒い塊が飛び出してきた。


「何…これ……」

「前に言っただろう、私の魔法の一つは『影を操る』だ。この黒いのは書類から取り出した影の情報…いわゆる魔法少女のデータのようなものだ。」


なるほどと私が感心していると、更に影雪は手を組み合わせた。そして、 


影蝶カラスアゲハ


そう言うと影の塊が蠢き出し、無数に分裂したと思う間も無く、分裂した破片一つ一つが成形されていき、フワリと飛び立ち始めた。


…影絵…?これは…蝶…?


「…よし、成功した。」


影雪は満足げだ。


影蝶カラスアゲハは飛び回って目的の魔法少女にくっつく。そうすれば私に情報が来る。それを待つんだ。」

「凄いね…バニラさんもこれで…?」

「いや…バニラの時は鳥形に成形して捜索した。今回は捜索範囲が広いからな…」


今日は休日だし、時刻は朝だ。

私は影雪と情報が来るまで気長に待つことにした。


* * *


30分後…


「中々来ないね…」

「もしかしたらかなり遠い場所にいるのかもしれないな…」


玄関で腰掛けながら話す。影雪は少し楽しそうにしていた。


1時間後…


「ふぁぁ…リナちゃん…ゆーちゃん…おはよ~」


バニラが起きてきた。…って…ゆーちゃん…?


「バニラ…その呼び方は恥ずかしいから止めろと…」

「いーじゃんー影雪だからゆーちゃんで!!」


ゆーちゃんと呼ばれて照れている影雪。二人は出会って短いのに結構仲良くしている。私が思うに、バニラには誰とでも仲良くなれて、影雪は若干目付きは怖いが誰からも愛されるような魔法少女なのだろう。


「ねーねー…二人は何してるの~…?」


寝起きのバニラはまだウトウトしながら私達に聞いてきた。


「魔法少女探しだ。情報が来たら…すぐさま向かう…」

「ふーん…何か…楽しそうだね~…」


私は二人の会話を聞いているなかで気が付いた。

バニラもそうだが、影雪もウトウトとしている。もしかしたら昨日寝ていないのかもしれない。仕事をしていたのだろうか…?


そう思っていた次の瞬間だった。


「スピー…」

「クー…」


二人は私にもたれ掛かって爆睡していた。


「バニラさん…?影雪さん…?」

揺さぶってみたが二人は全く起きる気配がない。


「ふぅ…やっと薬が効いたかのぅ…」


どこからか声が聞こえた。


「だ…誰だ…?どこにいる…!?」

「……?薬が効いてない?…お主は普通の人間のようじゃな…ならば…」


『ポンッ!!』


何かの破裂音が聞こえた方に振り替えると、さっきまで石が置いてあった場所に一人の少女が立っていた。


「初めましてじゃな。儂は魔法少女『コーン・コバルト』じゃ。…そうじゃな…長いから『コーン』でも呼ぶのじゃ。」


特徴的な話し方をする少女…

巫女のような衣装を身にまとい、紺色の髪には鈴が二つ付けられている。巫女服はしっかりと着ているようだが、少女の大きな胸で完全には隠しきれていない状態だ。ブカブカな袖のようなもので、腕や手は見えていない。

そして…たまにピクピクと動いている狐のような耳と尻尾…顔には動物の髭のようなメイクがされている。


「…どうしたのじゃ?儂の胸が気になるのか…?」


巫女魔法少女は自らの胸を持ち上げて見せた。


……魔法少女というのはこういう発言や行動に恥ずかしさというのを感じないのだろうか。


変な誤解をされないように、私は巫女魔法少女の顔から下を見ないで話すことにした。


* * *


「…ってことは…この二人を眠らせたのは貴女ってことですか…?」

「そうじゃ。儂は薬の調合が得意でのぅ、普通の人間には効かず、魔法少女だけに効く気化型睡眠薬を調合したのじゃ。今日はこれで影雪に一泡吹かせてやろうと思ったのじゃ。…もう一人も眠らせてしまったがのぅ…すまぬ…」


…影雪の言う通り、悪い魔法少女ではないのかもしれない。


「そういえば…貴女って不法入国したんですよね…?」

「うむ。そうじゃが?」

「もしかして影雪さんにイタズラするだけのために不法入国したんですか…!?」

「う…うむ…」


…影雪にイタズラするためだけに不法入国って…イタズラするなら他の魔法少女でもいいんじゃ…?

それに…何度も影雪に叱られてもまたイタズラを仕掛けるって…


あれ…?もしかして……


「もしかして影雪さんの事好きなの…?」

「………!?」


コーンは顔を赤くして黙り込んでしまった。そして…


「………そ…」


……そ?


「そそそそそそそんな訳あるかああああ!!儂がぁ!…儂が影雪を好きな事なんてえええええ!!!!」


…分かりやすっ……


「でも…イタズラなら他の魔法少女でもできるんじゃ…」


「…儂がイタズラしてもちゃんと叱ってくれるのは影雪だけだったのじゃ…影雪がここの世界に行ってしまったから…………寂しかったのじゃあ……」


コーンはグズグズと泣きそうな顔をしていた。


そういうことだったのか…

好きだから相手にちょっかいを出してしまう……何かのテレビで見た気がするようなしないような…


「でもどうするの…?影雪に捕まったら多分帰されちゃうよ…?下手したらここに来ること自体出来なくなるかも…」

「…それは…困るのじゃ…」


私とコーンが悩んでいると


「私に任せてよ~!!」


…バニラ!?


「バニラさん…起きてたの…?」

「うん!イタズラのところくらいから聞いてた~!!」


…ほとんど聞かれていた。


「白髪の娘…!何かいい方法があるのか…!?」


コーンはバニラに顔を近付けてきた。


「任せてよ~!!私が手を貸すからには大船に乗った気持ちで…アレ…?泥船だっけ…?とりあえずバニラシップにお任せ!!!」


…バニラには悪いがかなり心配だ……

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