第7話 影雪は二度固まる

「影雪さんってさ…何か知らない間に居候してるよね…?」

「え…?」


私の作ったご飯を食べていた影雪はその手を止めて固まった。


「も…もしかして迷惑だろうか…?」

「いや迷惑って訳じゃ…」


…正直、私は影雪にかなり助けてもらっている。私が学校に行っている間、影雪は買い物や洗濯などをしてくれているのだ。最近はバニラと一緒に働き場所を探しているそう。バニラも手伝ってくれて嬉しいと言っていた。


「影雪さんには助けてもらってるよ。居候してても大丈夫だからさ。」

「そ…そうか…ありがとう…。あ…そうだリナさん、少し聞きたいことがあるのだが…」

「うん、いいよ。どうしたの?」


私が影雪が話していると、ふとあるものが目に入った。


「そういえばさ…あれって何なの…?」

私はリビングにちょこんと置いてあるぬいぐるみを指差した。

確か…影雪がこの家に来たときから持っていた気がする。


一見ウサギのぬいぐるみのようなのだが、着物のような衣装をまとっていて、何故か髪が生えている。その髪はとても長く、先がまとまって、まるで筆のように先端が黒く染まっていた。


「あ…あれか…あれは『すみれドール』っていうんだ。…私の大切な…宝物なんだ…」

「へぇ…」


私はすみれドールを手に取り、少し抱き締めてみた。小さい頃、親から貰ったぬいぐるみで大はしゃぎしてたなと懐かしく思った。


「可愛いね、コレ。」

「そう言って貰えると私も嬉しいな…」


影雪が微笑みながらすみれドールと私を眺めていたその時だった。


『ピロリロリーン♪』


何かが鳴った音が聞こえた。


「…先輩からか…?」


影雪は影で作ったと言っていたマフラーに手を掛けた。すると、マフラーの先端が手の形に成形され、さらに伸びたマフラーが影雪が寝室としている元物置の扉を引き開けた。その手は物置の中へと消えていったと思う間もなく、端末らしき物を持った手が影雪の元へ戻ってきた。


「あ…やっぱり先輩からだ…」


影雪は端末を持ってきたマフラーで端末の画面を確認していた。


「影雪さん…それって魔法の国ってヤツの端末なの…?」

「そうだ。この世界に行く際にこの世界と魔法の国の電波を受信できる様に前に知り合った魔法少女に改造してもらった特注品だ。」


改造…そういう魔法なのだろうか…?


「その端末見せてくれないかな?ちょっと興味ある。」

「ああ…どうぞ…」


私からのお願いに影雪は素直に答えてくれた。そして私の手の上で影雪が端末のパスワードを解除すると、待ち受けに沢山の少女達の画面が写し出された。


その画面には、中央にレインコートを着た少女がいた。

その周りを法被やレーサー服、着物に身を包んだり、獣の耳が生えていたり、葉っぱのような少女達が笑顔でピースサインをしている姿が写されていた。影雪もその中にいて、少し恥ずかしいそうな表情でピースサインをしていた。


「これも全員魔法少女なの?」

私が訪ねると、影雪はコクリと頷いた。


「皆大変な思いをしていてな…この写真を見ると、私も頑張らなければならないなって気持ちなるんだ。」


魔法少女で大変な事。それを聞かなくても私には大体想像がついた。私は「そうだったんだ」と一言だけ言い、画面をスライドさせた。

すると、ある一つのアイコンに目が止まった。


「あれ…?これってこの世界のアプリだよね…?」


それは、私もプレイしている簡単に言えば陣取り合戦のようなゲームのアイコンだった。


「このゲーム…魔法少女のキャラも出るし…面白いから…」


影雪は顔を赤くし、モジモジしていた。


「面白いよね、このゲーム。今度一緒に協力プレイしようよ。」

「い…いいのか…?」

「うん、勿論。」


影雪は嬉しそうに「ありがとう」と言って、私の手の上でメールを確認し始めた。


確か…相手は先輩…とかいってたな…


私は自分の手の上の影雪と先輩さんの会話を見ることにした。


* * *


『雪さん、バニラさんの調査書届きましたよ。』

『届きましたか。先輩、確認宜しくお願いします。』

『バニラさんは水無月さんという人の家に居候…しているのですね。影雪さんもそこに…?』

『はい、私もリナさんに助けてもらって…』

『そうなのですか。リナさんは凄い人なのですね。あ、ごめんなさい雪さん、用事が入ったのでここまでということで…引き続き調査お願いしますね。…あと、リナさんに宜しく言っておいて下さい。』

『了解しました。お疲れ様です先輩。』


影雪は先輩へのメッセージを送信した後、端末をスリーブさせた。


「…という訳で…先輩から宜しくだそうだ…」

「ど…どうも…」


メッセージを見るだけだと、影雪の先輩さんはとても人柄が良さそうな印象だった。影雪が言うには、先輩さんは『天候を操る』魔法を使う魔法少女なのだそうだ。普段は優しいが、怒るときは怒る。まだ学生な私でも、先輩さんはいい上司なのだなとしみじみ思っていた。


…その時だった。


『ピロリロリーン♪』


再び、影雪の端末に着信が入った。


「あれ…?さっき先輩用事が入ったって…」


影雪は端末を操作し始めた。そして…


「…え?」


先輩さんから送られたメールの内容を見るやいなや、色白の肌を更に白くして固まってしまった。


「影雪さん…?どうしたの…?」

私が固まっている影雪に恐る恐る聞いてみた。

すると、影雪は無言でメッセージ画面を私に見せてきた。


…その内容は……


『雪さん大変です!!たった今、魔法の国からとある魔法少女がこの世界に不法入国したという情報が入りました!!至急情報を送りますので、早急に身柄を確保してくだあああ!!!』


……最後盛大に誤字っているのを見る限り相当パニックになっているようだ。


「と…とととととりあえず、先輩から情報来るのを待ちましょー!!」

影雪も相当パニック状態になっていた。


…不法入国魔法少女…また一波乱ありそうだ…… 

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