第6話 Magical girl's housekeeping match
突然影雪に勝負を仕掛けてきたバニラは顔を真っ赤にして怒っている様子だった。影雪が私を狙っていると勘違い…いや、勘違いかどうかは分からないが、とにかく影雪に対してのライバル心というものが爆発したのかもしれない。
当の影雪は「何故こんなことに…」というような表情だった。
「聞いてんの影雪!!勝負内容はリナちゃんに決めてもらう!!そして負けた方が勝った方の言うことを一つだけ聞く!!これでいいよね!!」
バニラは勝手にルールを押し付け、フンと鼻を鳴らした。
すると影雪は諦めたかのように溜め息をつき、
「分かった。受けてたつ。」
バニラとの勝負を快諾した。
* * *
「リナちゃん、勝負の内容どうするの?」
ソファーに座って近くにあるスーパーのチラシを見ていた私の背後からバニラがヒョコっと顔を出してきた。
「いや…何で私が決めるの…」
今日はスーパーの朝市、属に言う特売日なので色々と買っておきたかった。それを勝負で潰されたらたまったものではない。しかし、このまま決めないでいるともっと面倒くさい事になる可能性もある。
なるべく短時間で勝負がついて、魔法少女としての力も発揮できる…あれ?
「影雪さん、影雪さんの魔法ってどんな魔法なんですか?」
そういえば影雪の魔法を聞いていなかった。どんな勝負事でもお互いの魔法を知っていないとフェアではないだろう。バニラもそこら辺はしっかりと分かっている筈だ。
「え…私の魔法…か?」
影雪は突然の質問に若干戸惑った様子だった。
真面目そうに見えるが、案外抜けているところもあるのかもしれない。
「わ…私の魔法は『冷気を纏う影を操る』…だ。このマフラーも影でできている。先端のは氷だ。影は色々な形に変型させられるし、小さめの池くらいなら一瞬で凍らせられる。」
影を操る魔法…それに氷の属性付きときている。
「その魔法凄いね…影雪さんって結構強いの…?」
「強い…かどうかは私にも…。でもこの前なんとかまりか…とかいう魔法少女が擦れ違いざまに蹴りを入れてきて、それをかわしたら「お前強そうだなぁ!勝負だ!!」っていきなり言われて…あれは驚いた…」
何その魔法少女、物騒過ぎる。
「勝負には負けてしまったがな…私もアイツの頭の植物を凍結させて破壊したり、マフラーで数十回は殴ったのだが…」
影雪本人も物騒だった。
「言っておくけどここじゃそういうの絶対駄目だからね…?」
「分かっている。アイツは頭のネジがぶっ飛んでただけだ。」
* * *
影雪と話して分かった事がある。
彼女は滅茶苦茶強い。魔法もそうだが、影雪は身体能力が普通の魔法少女より数段高いと考えて間違えないだろう。
バニラも魔法少女だが、魔法は『アイスを作り出す』だけで戦闘系の魔法ではない。身体能力は普通の人間と比べれば並外れたものだが、影雪相手となるとそうはいかないであろう。
単純な魔法少女の勝負ではバニラが圧倒的に不利だ。
その前に魔法少女同士が戦ったらこの家どころか近所にまで迷惑がかかる気がしてならない。下手をすれば町中を巻き込んで警察ださになってしまう可能性もある。
…そういえば某アニメじゃ「あっちむいてホイ」で勝負してたな…単純だけど力の差が出るとかなんとか……
「…………」
私はしばらく悩み、一つだけだがいい案浮かんできた。
「あ、そうだ。アレなら……」
* * *
「「家事勝負…?」」
影雪とバニラは首を傾げて前を歩く私に聞いてきた。
「家事なら魔法とか身体能力の差は出ないと思って。」
…というのは建前で、バニラが居候したことで増えた家事を手伝ってもらいたいのだ。勝負と言えば二人は勝負して家事も済んで私が助かるし、スーパーの特売にも間に合う。つまり一石二鳥、我ながら素晴らしい考えだと思った。
「リナさん、私達は何をすれば…」
「リナちゃん、何すればいいのー?」
影雪とバニラはソワソワしたりワクワクしたりしていた。
「それじゃ、ルールを説明するね」
* * *
私はスーパーに向かう途中で二人にルール説明を始めた。
勝負内容は『買い物』。私が特売に行っている間に、同じぶっ飛んでたスーパーで影雪とバニラにはそれぞれメモに書いてある4つの物を買ってきてもらう。より正確に、そしてより早く家に帰ってきた方が勝ちということだ。
制限時間は9時、私が毎回楽しみにしているニチアサが始まる時刻までだ。二人には3000円を持たせておく。このくらいあれば全部の品を買える筈だ。
「ニチアサ…というのはよく分からないが…とにかく正確かつ早く品物をリナさんに届ければいいのだな。」
「分かった!リナちゃん、私頑張るー!!」
そうこうしている間にスーパーに着いた。
ほぼ24時間営業という便利すぎて逆に心配になってくるレベルの営業スタイルなのだが、品質や店員の態度は申し分無い。
「それじゃ…現在時刻8時16分。よーいスタート!!」
私の合図でバニラと影雪は一斉に駆け出した。
* * *
二人が勝負している間、私は私の目的を果たす。
向かったのは惣菜コーナー。朝市ならではの特別価格で売っているのがこのスーパーの特徴だ。私は惣菜コーナーにつくやいなや、陳列棚に目を通した。
…あった。コレだ。
手に取ったのはトンカツ。普段は600円するのに、朝市になると250円で売られている。一度食べたことがあり、味は絶品だ。
私はトンカツを2パック買い物カゴに入れ、別コーナーへ行こうとカートを押そうとした時だった。
「あれ…?水無月さん…?」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。
振り返ると、若干まだ寝癖の残っている薄い水色がかった髪をなびかせた少女がこちらへ向かってヒラヒラと手を振っていた。
「あ…如月さん…おはようございます」
「おはよ。家の野菜も買ってくれたかな?」
彼女…「如月 涼風(きさらぎ すずか)」はこのスーパーの一角にある八百屋でバイトとして働いているクラスメイトの一人だ。親がこの八百屋で商売をしているので涼風はいわゆる後取り娘というわけで、今はバイトとして商売のアレコレを学んでいるのだそう。
「うん、後で買うよ…ってアレ?」
「ん…どうしたの?」
「あの子って新しいバイトの子…?前に来たときはいなかったよね?」
私の視線の先にはビクビクとしながら段ボールを運んでいる少女の姿があった。フードを被っていてハッキリとは見えないが、濃い赤色の髪だけが顔を覗かせていた。少女は私に気付いたのか、ビクリと跳ね上がり、店の奥へと隠れてしまった。
「あはは…まあ、そんな感じかな…臆病なところがアレだけどね…」
涼風はワシャワシャと髪を掻きながら苦笑いをしていた。
私はしばらく話し込んだ後、涼風と別れ、会計を済まし、スーパーを後にした。
* * *
私が家に帰るとバニラが既に玄関で待っていた。
「リナちゃん遅いよー!!」
バニラは私の姿を見るやいなや、駆け寄ってきて頬をぷくっと膨らませた。
「ごめんね、友達と話してて…」
私は玄関の鍵を開け、バニラを中に入れた。
…数分後、影雪も買い物袋を持って帰ってきた。
* * *
「それじゃ…答え合わせといこうか」
私の一言で二人は背筋がピシッとなった。しかし、バニラはワクワクしている様子だ。早さでは勝って余裕があるのだろう。一方の影雪はソワソワとあまり落ち着いていなかった。
私は、まず始めにバニラの買ってきた買い物袋を覗き…
「…バニラさん…?」
一瞬で凍りついた。
「なになに~?」
バニラ本人は気が付いていないようだ。私はバニラの買い物袋の中身を一つ一つ取り出した。
「バニラさん…これは…?」
「人参でしょ~?」
…いやこれどう見てもゴーヤだし。
「これは…?」
「じゃがいも~」
…カボチャ。
「ならこれは…?」
「油って書いてあったから~」
…油は油でも何故油揚げになるのだ。
「最後の…これって…」
「これ何て読むか分からなかった~」
…メモに書いたのは「鶏肉」。それがどうなれば「猪肉」になるのだ。バニラは私にジビエ料理でも作らせたいのか。
「全部ハズレ。」
「えーーーーーーー!?」
…一方の影雪は……
「玉ねぎ、パック卵、トイレットペーパーに食器用洗剤。うん、全部正解!!」
「ホッ…よかった…」
影雪が胸を撫で下ろしていると
「影雪ばっかりズルい!!影雪の簡単なヤツじゃん!!」
バニラはまだ駄々をこねていた。
「まあまあ…確かにバニラさんは全問不正解だけど、帰ってきたのは早かったバニラさんの方が勝ち。でも影雪さんは遅かったけど全問正解。こっちは影雪さんの勝ちだよ。」
「え…?」
「つまり…」
「勝負は引き分け。二人とも買い物お疲れ様でした。」
二人はきょとんとしている。そして、お互いの顔を見合わせて…
「影雪…さん…ゴメンね…あんなこと言って…」
「いや…私も悪かった…すまない…」
ちゃんと仲直りしたようだ。
時計を見ると時刻は「9時」を示していた。そろそろあれが始まる時間だ。
「二人ともニチアサ観る?」
「「観る!!」」
二人の返事で私はソファーに腰掛け、テレビの電源を入れた。
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