第5話 シャドウスノウ

「えっと…何だっけ……」


私の目の前では、朝ごはんを食べるのも忘れ、頭を抱えているバニラがいた。出会って数日しか経っていないが、私の知ってる限りバニラは自由奔放な魔法少女だ。余り考え事など無さそうに見えるが…


「バニラさん、一旦落ち着こうよ……ね?」

私の言葉にバニラは少し落ち着いたような表情で「うん…」と言ってヨーグルトをちびちびと舐め始めた。本来の食べ方とは全然違うが、バニラが落ち着くならと放っておくことにした。


何かやってないかなと思いテレビをつけると、テレビ画面には朝のニュースが写し出された。そのニュースは丁度季節の話題になったところで、女性リポーターが何処かの山道を登りながらリポートをしていた。


『S市にあるこの山も雪解けが多くなって来ました。この雪解けの……』


「雪…解け……?」


雪解けという言葉にバニラがピクリと反応した。そして、


「雪…そうだ…雪!!あの人が来るんだった!!」


…完全に思い出したようだ。


そして、バニラはヨーグルトまみれの口を手の甲で拭き、パジャマ代わりに着ていた私の服を乱雑に脱ぎ捨てた。その服の下も何故か私の物だった。

しかし、バニラはそんなことは気にしていない様子で、最初に出会った時に入っていた段ボールの中から別の服を取り出して身に付けた。


わきにアイスを型どったようなボールを付けたオーバーオール。その下は半袖のTシャツ。そして、腕にはアームカバーのようなものを着けている。恐らくこれがバニラの本来の魔法少女の姿なのだろう。

オーバーオールのせいで見えないが、Tシャツはへそ出しタイプのTシャツで、一見すると都会の若者のような格好だった。


「よーし!いつでもこーーい!!」


バニラは玄関前に陣取った。

本人は強気になっているようだが、体は少し震えていた。


* * *


5分後。


『ピンポーン』

玄関のチャイムが音を鳴らした。


「き、来た!!」


バニラはビクビクとしながら玄関の扉に手をかけ……


「うああやっぱり怖いー!!」


とんぼ返りで半泣き状態になりながら私の背後に隠れてきた。

魔法少女のバニラでも怖いと認識する程の人物ということは、相手もかなりの人物ということなのだろう。


「あの~…バニラさんはいますか…?」


…声や話し方を聞く限りそうは思えないが……


「はいはーい」

半泣きのバニラがくっついているが、とりあえず私は玄関の扉を開けた。


「おはようございます。えっと…貴女は…?」


声の主はフラフラとしながらも、私の顔を見つめながら話しかけてきた。


黒髪だが毛先が水色になっている少しボサボサの髪、頭には三日月の形をした髪飾りを透き通った何かが覆った物が付いていた。紺色に近い着物のような服、肩には水色の鎖がたすき掛けにされていた。首には黒のマフラー。先端が水色の何かに覆われている。

そして、衣装全体に散らばめられているクナイや手裏剣の装飾品。その内一つの巨大な手裏剣は背中に背負うように付けられていた。


…間違いない。彼女は魔法少女。それも、忍者の魔法少女だ。


「バニラに用があるんだよね?バニラならここに…」

忍者魔法少女にバニラを会わせようとしたその時、フラフラとしていた忍者魔法少女が崩れ落ちるように倒れた。


「だ、大丈夫ですか!?」

私が忍者魔法少女に近付くと…


『グゥゥゥゥゥゥゥゥ……』


忍者魔法少女から大きな腹の虫が鳴った。


「私…ここに来てから何も食べて…なくて…何か…食べるものを……」


まさかの行き倒れ。


バニラはきょとんとしながら私から離れ、倒れている忍者魔法少女のほっぺたをプニプニとつつき始めた。


「バニラさん、この子運ぶからほっぺたつついてないで手伝って。」

「はーい。」


* * *


私は忍者魔法少女をリビングに運んだ後、彼女に私の朝ごはんを食べるように進めた。忍者魔法少女は戸惑っていたが、しばらくするとハムエッグを少しずつ食べ始めた。

しばらくすると余裕ができてきたのか、「トーストも食べていいか…?」と聞いてきた。さっきまで敬語を使っていたが、本来はこういう口調なのだろう。


私がいいよと言うと忍者魔法少女は嬉しそうにトーストを食べ始めた。さっきより食べるスピードが上がり、3分もしないうちに私の朝ごはんは忍者魔法少女の胃袋へと消えていった。


「ふう…ご馳走さま……」


忍者魔法少女は満足したようにお腹をさすった。


「助けていただき感謝します。何かお礼を…」

「いいよいいよ、お礼なんて」

「でも……」

「大丈夫大丈夫。朝ごはんはまた作れるしさ」


忍者魔法少女は「そうですか…」と言い、視線を移すと何かを思い出すかのようにハッとしてソファーの上でゴロゴロしているバニラに向かって歩き出した。


「魔法少女バニラ…だよな…?」


忍者魔法少女はバニラの前に立ち、書類を見せつけた。

その書類には『移住魔法少女。バニラ』と書かれていた。


「私は魔法の国から派遣された監査員…影雪(かげゆき)だ。貴女を調査しに来た。」


影雪…?そうか…「雪」…バニラはこの魔法少女が来ることを忘れてて、ニュースで思い出したということか…


私が一人で納得していると、


「影雪さん…リナちゃんに色目使ってない…?」


そう言いながら反動をつけ、ソファーから起き上がった。


「リナ…ちゃん…?私を助けてくれたこの人か…?」

「そう!!何でリナちゃんには敬語で私にはそんな冷たい言葉なの!!」

「ええ!?」


バニラに怒られ、少し引いた影雪はバニラに食って掛かってきた。


「この人は魔法少女じゃないのだろう!?私は魔法少女ではない人にそんな言葉は使わない!!相手が魔法少女の時だけだ!!」

「でもリナちゃん好きなんでしょーーー!!」

「何を言っているんだお前は!?」

「うるさーーーい!!!リナちゃんの初めては私が貰うんだからなー!!」


…やるつもりは無い。


「初めて!?そんな事してはならないのだぞ!?魔法少女はこの世界に仕事を…」

「しつこいなー!このーーーー!!」


バニラと影雪は一触即発状態だ。何とか事を納めなければ…私が二人の間に入ろうとしたとき…


「こうなったら~!!勝負だ!!影雪ィ!!!」


手遅れだった。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る