第4話 モーニン☆魔法少女

日曜日の朝。私は携帯のアラームで目を覚ました。


一人暮らしなのでずっと寝ていたい気もあるが、そういう生活がよくないことは分かっている。私は携帯のアラームを止め、ベッドから起き上がった。

軽く伸びをしていざベッドから降りようとした時、もぞりと毛布の中で何かが動くようなものを感じた。


毛布をめくり、中を覗きこんでみると…


「…何してんの……?」


毛布の中では美少女がスースーと寝息をたてていた。


そうだった…一人暮らしではなかった…


美少女…もといバニラは私が拾った魔法少女だ。就活で来たということは除き、彼女が魔法少女ということは信じたくはなかったが、私が彼女の魔法『美味しいアイスを作り出す』に助けられたのは事実だ。

……いや、魔法というよりは彼女の魔法少女パワーに助けられたと言った方が正しいのかもしれない。


家無しだったバニラは偶然出会った私を気に入ったらしく、半ば無理矢理だが私に拾わせ、今は居候という事で住んでいる。


…で、何故私のベッドにバニラが…?


私は寝ているバニラを揺さぶり、起きるよう促してみたが効果は無く、それどころかバニラは私の脚に抱き付いてきた。アイスの魔法少女だから体温は冷たいものだと思っていたが、バニラの体温は温かく、心地が良かったが二度寝している場合ではないとすぐに我に帰った。


…仕方ない。


私は毛布をめくり、気持ち良さそうに寝ているバニラの顔を見つめた。そしてそっと顔に手を伸ばし……


思いっきり鼻をつまんだ。


「……ッ…!?…ウッ!?…ゲホッゲホッ!!」


急に息が出来なくなったバニラは咳き込みながら飛び起きた。魔法少女でもこういう反応は変わらないらしい。


「ゲホッ…お…おはようリナちゃん…」


咳き込みながら起きたバニラはしばらくするとまたウトウトしだした。ふらふらと揺れる度、窓から差す朝の日差しがバニラの白銀の髪を輝かしていた。


「はいはいおはよう」


適当に挨拶を交わした後、私は朝ごはんの準備を始めるためにパジャマから私服に着替えようとした。ほとんど休日に着るのはダボダボのパーカーだ。


私がパジャマを脱ごうとすると、バニラはじっと私を見つめてきていた。


…今まで同性がいる状態の着替えなんて恥じらいは無いと思っていたが、この年頃になってくると少し恥ずかしいと思ってきてしまう。


…もしかして、相手がバニラだからだろうか…? 


私はそれは無いなと思いながらパジャマを脱いだ。パジャマはベッドの上に投げ捨て、代わりにハンガーに掛けてあったパーカーを着用した。


「バニラさん、朝ごはん作るから降りてきなよ?」

「うん、すぐ行くよ~…」


バニラはまたすぐに寝てしまいそうな顔をしながら返事をした。


「リナちゃん~…」

「ん?どうかしたの?」


「……リナちゃんっておっぱいちっちゃいんだね~…」

「朝ごはん抜きにするよ…?」


「ごめんなさい……」


バニラからのセクハラ的なものを強めに流し、私はキッチンへ向かった。とりあえず冷蔵庫からヨーグルトを二つ出しておく。


「バニラさん、何食べたい?」

寝ぼけながら階段を降りてきたバニラに聞いてみた。


「………ハンバーグ…」


トーストにした。


* * *


朝ごはんを準備して、テーブルの椅子に向かい合わせになるように腰掛けた。誰かと一緒に朝ごはんを食べるのは久しぶりだ。

トーストにヨーグルトにハムエッグ。ほとんど何時もと変わらない朝ごはんだが、恐らくバニラも好きであろうと思った。


「いただきます」

「いただきま~…す……」


バニラは寝ぼけたままトーストをモニュモニュと食べ始めた。

すると、


「このトーストにアイス乗せたら美味しいかも…」


…と呟いた。


トーストにアイス…いい感じにアイスが溶けて美味しいとこの前テレビで観た気がした。なので私は「やってみたら?」と促してみた。


「うん!!じゃあやってみる!!」


バニラは一気に目が覚めたようで、嬉しそうに手をパンパンと叩き、魔法でアイスを生成…


「…あれ……?」


出来なかった。


「やっぱり……あれって本当だったんだ…」


バニラはそう呟きながら何度もアイス生成魔法を試みたが、全て失敗に終わっていた。その後バニラは溜め息をつきながら椅子に腰掛け、食べ掛けだったトーストを再び食べ始めた。


「バニラさん、あれって何…?魔法使えなくなっちゃったの…?」

魔法少女にとって魔法というものは命と同じくらい大事であろうということは魔法少女には疎い私にも分かることだ。


「え…えっとね…?いや…その……」


何か後ろめたい事でもあるのだろうか?バニラは誤魔化すような仕草を繰り返し、話題を変えようと思ったのか周りをキョロキョロと見渡した後、目に入ったカレンダーの日付を確認するやいなやハッとした表情で


「…あれ…?…そういえば今日大切な事あったような……」


と言い出した。

私にはその表情は誤魔化すとかではなく、本当の事に聞こえた。


…大切な事とは一体……?


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ここは森だろうか?見渡す限り木ばかりだ。


ちょっと厄介な場所に到着してしまったなと思いつつ、私は魔法でマフラーを作り、深呼吸をした。自然の豊かな空気を吸い込み、スッキリとした気分になった。


…先輩から依頼されたこの仕事…いや…仕事というか調査…?は私的には比較的簡単に思えた。ただ依頼内容をこなす、それだけのことだ。


…とりあえず、到着したので先輩に報告を…

私は端末を取り出し、先輩に『無事到着しました』とメールを打って送信すると、すぐに返信が返ってきた。


『雪さんお疲れさまです。調査、宜しくお願いしますね。』

『了解しました。書類がまとまったらそちらに送ります。』

『分かりました。無理はしないで下さいね…』


一通り会話をした後、この世界に来る前に先輩から渡された書類をファイルに閉じた『調査ファイル』と書かれたものを収納スペースから取り出し、ページをめくった。この世界も魔法少女が沢山来たんだなと思いつつ、私は適当に調査する魔法少女を決めることにした。


…手始めにこの魔法少女にするか……


書類をファイルから外し、地面に置く。そして私の魔法を発動すると書類から黒い物が飛び出した。だがこの世界は魔法の国とは少し違うらしく、私の魔法ではこの魔法少女がいる方角しか情報が入ってこなかった。


それならばと私は黒い物に更に魔法を発動し、鳥のように整形した。


ここからは地道な作業だ。この黒い鳥の示す方へ進む。


私は魔法の黒い鳥が示す方角へ歩きだし、ぼそりと呟いた。


「調査一人目…何処にいるのかな…『魔法少女バニラ』……」

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