第3話 魔法少女拾いました

私の目の前では美少女…もとい自称魔法少女のバニラが「やったー!!」と喜びながら手を強く握っている。少し痛い。しかし、私の頭の中はその「痛い」ぐらいしか処理できないほどしか機能していなかった。


「ね。」


すると自称魔法少女が話しかけてきた。


「え…何…?」

頭の整理は追い付いていないが、とりあえず自称魔法少女の質問に答えることにした。


「貴女、名前は?」

「えっと…水無月…水無月 梨奈だけど…」

「リナちゃん!可愛い名前だね!!」

「そ…そうかな…?ありがとう…」


段々と記憶がよみがえってきた。


…そうだ。返事してしまったのだ。あの自称魔法少女の「拾ってくれない…?」というお願いに。頬をつつかれ、手を握られ、涙目でお願いされ、「いいよ」と答えてしまったのだ。


「ねぇ…バニラさん…私からも質問いいかな…?」

拾う拾わないは別として、聞きたいことは山ほどある。まずはこの自称魔法少女の事を知らなければならないと私は思っていた。


「いいよー!!なになに!?」

「あのさ……ん…?」


ポツン。


バニラと話そうとしようとした時、バニラと私の手に冷たいものが当たった。何だと思い空を見ると、黒い雲が空一面を覆っていた。そういえば朝観た番組で今日の午後降水確率は80パーセントだって表示されてたような…


……不本意だけど仕方ない。


「とりあえず私の家に行こう。そこで話の続きしようよ。私もだけどバニラさんも雨で濡れたくないでしょ…?」

「リナちゃんのお家!?リナちゃんもしかして私にいやらしい事を…!?」

「するわけないでしょ…」


私は家はあっちだからと言ってバニラを連れていくことにした。バニラは「ちょっと待ってて」と言って、ゴソゴソしだした。


「……それ持っていくの…?」

バニラは朝会った時に入っていた段ボールを畳み、左腕に抱えていた。


「ずっと入ってたから何か落ち着くようになっちゃって…」


あ…そうなんだ。


* * *


家に着いた私は、朝に鍵をかけ忘れた玄関のドアをしまったなと思いつつ引き開け、バニラを中に入れた。少し雨で濡れてしまったので洗面所からタオルを持ち出し、バニラに渡すと、バニラは「ありがとう」と笑顔で受け取り、髪を拭き始めた。


「バニラさん…早速なんだけど…」

タオルを首に掛け、ホットミルクを作ろうとしながら私はバニラに話しかけた。


「私を押し倒すつもり~?ワーオ!リナちゃんだいたーん!!」


違うわ。


「何でこの世界に来たか聞いてるの。それに何であの場所にいたの?あと、あの時私の口に突っ込んだあの冷たいのは何だったの?バニラさんが魔法少女だっていうなら教えてよ。…第一、私はまだバニラさんが魔法少女だって信じた訳じゃないからね?」


少し強めに言ってみた。バニラは魔法少女ではなく、ただのホームレスという可能性もあったからだ。私がバニラを見ていると、バニラの口がおもむろに開いた。


「長くなるかもだけど…いいかな…?」


* * *


……長かった。バニラの口から出る言葉は嘘か本当かはやはり分からないがここまで長くなると私は本当にバニラは魔法少女なのだと思いざるを得なくなっていた。


ざっくりと説明すると、バニラの産まれ故郷である「魔法の国」なるものは魔法少女が多すぎて就職氷河期、つまり大半の魔法少女には仕事が無い状況なのだそう。そこで、バニラを含む一部の魔法少女達はこの世界に仕事を求めてやって来た。という事らしい。あの場所にいた理由は特に無いのだそうだ。そして、あの冷たいもの。あれは…


「……チョコミントアイス……?」

「うん。あの時のリナちゃん何か気持ちが沈んでたみたいだから、スッキリ爽やかなチョコミントアイスがいいかな~って思って私の魔法、『美味しいアイスを作り出す』で作ったんだよ~」


…魔法。魔法少女であることを証明する何よりの証拠…あの時バニラが私の口に突っ込んだものがそのチョコミントアイス………


…ん…?あれ…?そういえば…


「ねぇ…バニラさん…バニラさんが私に食べさせたのがそのアイスだとして…あの後何で私は教室にいたの…?あのアイスには何かワープの効果とかあったの…?」


そうだ。まだ残っていた。あの出来事が一番の謎だったのだ。絶対に間に合わないと思っていたのに、気付いたら教室にいた。信じたくはなかったが、これも魔法の……


「え?違うよ?私の魔法はただアイスを作り出すだけだもん。」


……え?


「えっと…実は…あの時…私、リナちゃんに思いっきりアイス突っ込んじゃったから、リナちゃん軽い窒息起こしちゃってて…」


…ええ…!?


「どうしようと思ってたらリナちゃんの学年手帳が見えたから…その学校までリナちゃんおぶって魔法少女パワーで全速力で…」


そういうことだったのか…


「で、でも!学校間に合ったんだし!!結果オーライだよね!?私のこと、魔法少女だって信じてくれたよね!?」


バニラは半泣き状態ですがりついてきた。そして「お願い私を拾って!!」と顔を涙でぐずぐずにしながら手を握ってきた。


……………………。


私はバニラの握っていた手を振りほどいた。…両手をバニラの両脇に伸ばす。そして、重かったのでバニラがつま先立ちになる程度だったが、子猫を拾い上げるように軽く持ち上げた。


「じゃ、拾~っろった」


「……え?」

バニラはきょとんとしている。


「しょうがないから拾ってあげるよ。バニラさん。私も一人だしね。」

私の返事にバニラは一瞬戸惑ったがすぐに大泣きしながら抱き付いてきた。拭いたばかりの服がバニラの涙と鼻水でびちょびちょになってしまったが、まあいいかと思いながら私はバニラの頭を撫でた。


…その数分後。抱き付かれた私はバニラの魔法少女パワーで頸動脈を絞められ、再び窒息する事となった。

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