第9話 バニラの切腹デート作戦

「「デート…?」」


バニラが提案した作戦はあまりに単純過ぎた。


「うん!コソコソしたりイタズラを繰り返してゆーちゃんの気を引くよりは、一回だけでもいいから切腹して話した方がいいって!!」


バニラはテンションが上がったのか、ビシッとコーンを指差して話していた。


…恐らくバニラが言いたいのは「切腹して話す」ではなく「腹を割って話す」だろうが、バニラの言い分には一理ある。


コーンがこれからも影雪にイタズラを繰り返していると、気は優しい影雪でも今まで度重なっているためにイライラしてるのではないだろうか?

…もしそうならばいつマグマが噴火するか分からない。バニラの言う通り、多少強引でも二人でじっくり話す機会を与えるというのは悪くないだろう。


「…デ……デート…か…」


コーンは赤くなっていた顔を更に赤くしていた。


「どーするー?コーちゃ~ん」


早速コーンを「コーちゃん」と呼ぶバニラ、初対面、更に彼女に眠らされたというのに警戒のセキュリティが緩過ぎてはいないだろうか…


コーンは巫女服の裾を軽く握りしめてモジモジとしていたが、しばらくすると恥ずかしがりながらおもむろに口を開けた。


「……宜しく…頼むのじゃ…」


「オッケー!!ゆーちゃんには私とリナちゃんで言っておくよ!!」


* * *


「…う……私は何を…」


影雪が目覚めたのは、コーンが適当な森を探してそこで寝ると言い、ワクワクしながら帰った直後だった。


「ゆーちゃんおはよ~」

「バ…ニラ…?だからその呼び方は止めろと……ハッ!?影蝶に反応が!!アイツ…逃がすか!!」


「待って、影雪さん。話したいことがあるんだ。」


血相を変えて玄関を飛び出そうとした影雪だが、私の制止には素直に従ってくれた。


私は影雪が寝ていた時に起こった出来事を話した。

…勿論、コーンが影雪の事が好きということは内緒にして、「コーンは影雪に謝りたいから明日一緒に遊ばないかと言っていた」と誤魔化して。


「…アイツが…イタズラ以外の事を…?どういう風の吹き回しだ…?」


影雪はかなりコーンの事を疑っているようだ。


「影雪さん眠らされちゃったけどさ…あの子いい子なんでしょ?一度くらい付き合ってあげたら?」

「そうだよ~!このままじゃコーちゃん可哀想!!」


「うう……わ…分かった…明日…だな…」


バニラも加わり、ほとんど力押しになってはいるが何とか影雪の首を縦に動かすことに成功した。


すると、


「…なら…この姿では駄目かもしれんな…」


…ん?…『この姿』……?


魔法少女解除マジカル・オフ


影雪はそう呟き、くるりと一回転した……と同時に影雪の回りを覆うように吹雪が渦巻いた。その吹雪の激しさに私は思わず目をつぶってしまった。


…次に私が目を開けた時に瞳に映っていたのは、ダボッとしたTシャツを着た高校生くらいの少女だった。

艶やかな黒髪には三日月の髪飾り…って…え……?


「影…雪さん…なの…?」

「…ああ。」


…人間の姿の影雪。切れ長の目や黒髪、黄色の瞳は魔法少女の時と変わらないが、髪型や身長が微妙に違う。魔法少女の影雪はスラッとした体つきだったが、人間の影雪は寸胴体型…魔法少女の時と違い、胸の膨らみはほとんど無かった。

…だが、美人なのは人間の影雪でも変わらなかった。


「人間のゆーちゃん~!?おっぱいちっちゃ…ブフゥ!?」

「うるさい。」


余計な事を口走ったバニラは人間影雪に思いっきり腹パンされた。


「~~……!!!」


パンチがクリーンヒットしたのか、お腹を抱えてのたうち回っているバニラを尻目に、

「私は元々魔法少女のバニラと違って、変身して魔法少女になるタイプなんだ。……本来の名前は『霜影しもかげ 雪乃ゆきの』っていう。…まぁ…今まで通り影雪と呼んでくれ…」


…と、影雪は少し恥ずかしがりながらそう言ってくれた。


すると、


「ゲホゲホ…ゆーちゃん…人間の姿で行くの…?コーちゃん分かるかな…?魔法少女の姿で服とか変えればよくない…?」


話せるぐらいまで回復したバニラが尋ねてきた。


「…あ。」


確かに。恐らくコーンは人間の姿の影雪を知らない。影雪が『霜影 雪乃』の姿でデートに行けば、コーンは気付かないと思うのが妥当だ。


「……マ…『魔法少女変身マジカル・オン』…!!」


影雪は顔を赤くしながら再びくるりと一回転して魔法少女に変身し、気持ちを落ち着かせたかったのか「ふぅ」と息を吐き、無言で私をじっと見つめてきた。


…これってもしかして…


「私には『オシャレ』というものがよく分からない。リナさん…私をオシャレにしてくれないか…?」


…マジかよオイ。


* * *


次の日……


「…こんな感じでいい…?」

「うわぁぁ~!ゆーちゃん可愛い~!!」


とりあえず、私は影雪にメイクとドレスアップを施した。

…化粧セットは中三の秋の時に出来心で購入したもののメイクを失敗し、そのまま引き出しの中に封印されていたものがあったのでそれを使用し、服は私が持っていた服をバニラが選択してくれた。


「…!?これ…私か…!?」


鏡を見た影雪は興奮した様子だった。


…ネットで化粧の仕方を調べ、見よう見まねで軽いチークなどを影雪にしてみたのだが、思いの外上手くいったと思う。

そして、これまた出来心で購入して今はクローゼットの中に押し込められていた水色のワンピースは魔法少女の姿の影雪に似合わない筈がなく、その姿は見るだけで涼しくなりそうなほど。

いつも忍者装飾


影雪は鏡の前でクルクルと回転し、「可愛い…」と呟いていた。

魔法少女でも中身は女子高生だ。やはり可愛い物が好きらしい。


私は携帯の時計を確認した。


…そろそろ時間かな…?


* * *


…バニラが提案したデート場所はデパートだった。

バニラ曰く、あのデパートなら何でも揃っていて飲食店もあるし、映画館もあるからデートスポットなのだそう。

バニラはいつの間にリサーチしていたのだろうか…?


…デパートの豪華な時計の針は『10時30分』を示していた。

コーンと影雪が待ち合わせにしたこの時計柱。影雪は緊張しているのか、回りをキョロキョロと見渡していた。すると、


「待ったかのう影雪!!」


コーンが影雪の元に駆け寄っ……コーン……!?


コーンと思われる少女は、髪色こそ同じなのだが、耳も尻尾も無く、巫女服は有名メーカーの服になっていて、何処にでもいる普通の若者の格好になっていた。特徴的な喋りをしない限り、コーンと判断するのは難しいレベルだ。


コーンも影雪の為に頑張ったのかな…何か泣けてくる…


…「待った?」と聞かれたら「ううん、今来たところ」と言うのが恋愛漫画のセオリーのようなものだが…


「うん、待った。」


影雪はぶれない。


「す…すまぬ…」

「いや、別にいいから。早く行こ。」


影雪はコーンを急かすように歩き出した。


なので私達も二人を追って……


…って…


「何で私達付いてきてるの!?」

「リナちゃんシーッ!気付かれちゃう~!」


…これもよくある展開…友人のデートに変装して尾行する…


「あ、二人ともお店に入っていったよ!!付いていこ!!ん~!魔法少女スパイ、バニラ!お店に突入~!!」


…バニラは嬉々として私の手を引っ張っている。


「ハイハイ。行こうか、魔法少女スパイさん。」


…そんな訳で、影雪とコーンのデートが始まった。

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