第11話 水無月マジカルスクールデイズ
「皆さん、宜しくお願いします。」
クラスの生徒達の前で挨拶をした少女『霜影 雪乃』……いや、『魔法少女』の『影雪』は先生に促され、何事も無かったかのように私を横切り、私の後ろの席へ腰を下ろした。
「転校生と近いなんてちょっとラッキーかもね。」
「…そう…かもね……」
声を潜めて話しかけてきた涼風はウキウキしているようだが…私にとっては、私の後ろにいる少女、影雪が桁外れの力を持つ魔法少女で、その魔法少女が私の家に居候しているなんて言えるわけがない。
私の中ではウキウキというよりドキドキの方が遥かに上回っている。
「さてと…今日はこれでホームルームは終わり~。皆~霜影さんと仲良くしてあげてくださいね~」
…とりあえず…さりげなく影雪に近付いて、色々言っておこう…
私は心の中でそう考えていた。
ホームルームが終わり、転校生の宿命とも言えるクラスメイト達の質問攻めが始まった。
「霜影さーん!!部活何にする!?」
「バトミントン部に入ろうよ!!私もバトミントン部だよー!!」
「えー!?書道部にしようよー!!霜影さん大和撫子って感じじゃん!!」
…流石は部活に力を入れている学校の生徒達。転校生を自分達の部活に引き込もうと転校初日から勧誘とは…
「手芸部なんてどう!?可愛いコサージュとか作れるよー!!」
「漫研はー!?楽しいよー!!」
今のところ帰宅部の私には関係の無い話……いや、最終的にはどれかの部活には入らなければならないのだが…
…影雪と…いや、影雪達と共同生活してるなんてバレないようにしなければ…
私は『普通』を愛する女子高生…普通な高校生活を贈るのだ…
「ねぇねぇ、霜影さんって何処に住んでるの?」
「ん?リナさんの家に居候しているが…?」
……さようなら。私の普通な高校生活。
* * *
…影雪が私にとって一番言われたくなかった台詞を言った後、質問攻めの矛先は案の定私に向いた。
「リナちゃん霜影さんと住んでるの!?」
「共同生活!?羨ましいーー!!」
「一緒にお風呂入ったりするのー!?」
「霜影さんみたいな美人さんとか~…楽しそうだね~!!」
「いや…ちょっ…」
影雪に対する質問攻めよりも質問攻めされた私は、かなりフラフラになりながら授業を受けるはめになってしまった。
* * *
一時限目。国語
「懐かしいな…この感じ…」
影雪は嬉々としながらノートをとっていた。
久し振りの授業が嬉しいようだ。
二時限目。地理
「モルワイデ図法…?聞いたことないな…」
聞いたことない…それは初めて学ぶところだから聞いたことないのは当然だと思うのだが…
三時限目。体育
「霜影さん早っ!?」
影雪は100m走をぶっちぎりで一位になっていた。魔法少女ではなくても身体能力は抜群のようだ。
「霜影さん早いねー」
涼風が走り終わった私に話しかけてきた。
「涼風さんは走らないの…?」
「私はこの後だよ~貧血気味だから少し心配だけど…」
四時限目。科学
「スー…スー…」
…寝てる…影雪ではなく涼風が……
「疲れてるのか…?リナさん、授業中に寝て大丈夫なのか…?」
影雪が後ろからひそひそ声で話しかけてきた。
「大丈夫…ではないよね…まあ…涼風さんはそういう人だから…影雪さんは大丈夫なの…?」
「…私も『霜影 雪乃』の時は普通の学生だ…この学校は部活に力を入れていて、ほとんど午後放課と聞いた。この学校なら魔法少女監査の仕事も、勉学も出来ると思った…だから転校してきた。学生をする以上、全力でやらねばな。」
…真面目過ぎる。
魔法少女でも、学生でもエリートなんだなぁ…
「今日はここまで。次はあと二つの地図を解説するぞー」
…丁度授業が終わり、昼休みが始まった。
* * *
「やはり、学校は楽しいな。」
影雪は持参してきた弁当を食べながらそう言った。
弁当の中身を覗くと、弁当箱一杯にオムライスが敷き詰められ、中央にはケチャップでハートが描かれていた。
「コーンさんが作ったんだね。」
「ああ。私とコーンがデ…デートをしたあと…コーンはまたメイドカフェに行ってオムライスの作り方を教えてもらったんだそうだ……」
「あれ?今日はコーンさん出掛けるって…」
「コーンはあのミィルというメイドと仲良くなって、今日は一緒に映画を観に行くと…バニラはコンビニのバイトを始めたらしい…今日は家に誰もいない筈だ。」
バニラ…いつの間にバイトを…
「リナさんの隣の席にいた生徒の事なのだが…」
「涼風さんのこと…?」
「…その生徒から魔法少女の気配がした。」
…!?
「それって…涼風さんも魔法少女ってこと…?」
「いや…だとしたら感じる気配はもっと強い。その気配は涼風さんが魔法少女…と言うよりは、涼風さんの周辺に…私達のように共に生活している魔法少女の気配…と言った方がいいな。」
涼風さんにも…魔法少女の居候…!?
「それってどんな魔法少女なのかって分かるの?」
「いや…それは分からない…何かしらの情報がなければ…」
涼風は小学校の時からの親友だ。あまり詮索はしたくないのだが…
「そういえば…今日涼風さんフラフラしてた…貧血かもねって言ってたけど…」
「貧…血…?」
私がぼそりと呟いた言葉に影雪がピクリと反応した。
「リナさん…確かに涼風さんは八百屋で働いて…いるのだよな?そこに髪が赤い…いや、所々黒のメッシュの入った赤髪の人はいなかったか!?」
……いた。
フードを被っていて、メッシュが入っていたかは分からないが、ビクビクしていて段ボールを運んでいてそのまま段ボールの山に突っ込んだ赤髪の少女が…
「そういえば…影雪さんとバニラさんが買い物対決したときにそんな子見た…」
「…!!やはり…アイツが…!?いや…そんなハズ…」
影雪は今まで見たことのないくらい慌てた表情をしていた。
「ねぇ…影雪さん…?もし本当に涼風さんのところに魔法少女がいるとして…影雪さんは気付かなかったの?涼風さんの八百屋にも行ったことあるよね…?」
影雪は首を横に振った。
「行ったことはあるが…気付かなかった…アイツは魔法ではないのだが、気配を消したり物体をすり抜けられる魔法のマントを身に付けている…いたとしても気付くのは私でも至難の技だ…」
そんな魔法少女がいるのか…
「やっぱり…監査として取り締まるの…?」
「いや…先輩から『この魔法少女は無視しても大丈夫です』と…」
…え?
「いや…コイツは少し…訳アリというか…」
訳…アリ…?
「とにかく無視しても大丈夫な魔法少女だ…」
「本当に大丈夫なの…?」
影雪は何度も頷いて大丈夫だということを表現した。
「もしアイツと話す機会があれば監査する…」
「そっか…ならお弁当食べて部活行こうか。帰宅部だけどね…」
「…そうだな。」
私と影雪は弁当を食べながら盛り上がっていた。
………しかし、その時の私は『その魔法少女に襲われる』ことなど知るよしも無かった。
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