第12話 マヨナカブラッド
「涼風さんの所にも魔法少女…」
「確証は無いがな。あくまで可能性が高いというところだ。」
下校中の私と影雪は先程聞いた影雪の話から続けていた。
「その魔法少女ってどんな子なの?」
「…名前は『ブラッド・キューラ』。私が知っているのはそれだけだ。…彼女は謎が多くてな…容姿も魔法でさえも分からない。資料も先輩に監査する必要ないと言われたので持っていない。」
影雪は頭をかきながら話していた。謎が多い魔法少女相手に、影雪も相当悩んでいるのかもしれない。
「でも…買い物に行くときに多分会うことあるよね…?」
「…だよな……後で資料を魔法の国の先輩から請求しておこう…」
影雪が端末を取り出して操作しようとすると、
『ピルルルルルルルルルル!!!』
突然その端末から甲高い音が鳴り始めた。
「うぉふ!?」
影雪は突然の着信に驚き、端末を取りこぼしそうになったが、何とか持ちこたえて電話に出た。
「もしもし…ピース先輩…?何ですかいきなり電話なんて……え?今度帰ってくるときにツーリングに行こう?いや…私、未成年って何度も言ってますよね…?」
ピース先輩とやらに色々言われている影雪…もしかしてパワハラ…?
私が会話を聞いていると、
「あれ~?リナちゃんにゆーちゃんだー!!」
「バニラさん…?」
目の前にあったコンビニからバニラが出てきて駆け寄ってきた。
バニラはいつもの魔法少女衣装ではなく、以前買ったTシャツを着ていて、何故か眼鏡まで掛けている。
「バニラさんのバイト先ってここだったんだ。どう?上手くできてる?」
「うん!皆可愛い可愛いって言ってくれてチヤホヤされてるー!!」
バニラはニコニコとしながら何かが入っている袋を見せてきた。中身を覗くと、おにぎりやお菓子などがどっさりと入っていた。さしずめ、ファンのような人から貰ったのだろう。
…もはやコンビニアイドルだな…
「ねーねー、ゆーちゃん何してるの?」
「え?あー…先輩さんと話してるよ?」
「いや、魔法少女なら大丈夫とかそういう問題では…それよりちょっとお願いがあるんですけど…はい、ブラッド・キューラという魔法少女の資料を送ってくれませんか…?……はぁ…?……分かりましたよ…お願いします…」
影雪は溜め息をつきながら電話を切った。
「…影雪さん…?」
「資料送る代わりにツーリングに付き合えと…まぁ…あの人には借りがあるから…仕方ないな…」
影雪は端末をバッグに仕舞い、「帰ろう」と一言だけ言って歩き出した。
* * *
家に帰った私達は、テレビを観たり、途中で帰ってきたコーンの家事を手伝いをしたり、その後に夕飯を食べたりしている内に、気が付けば時刻はあっという間に夜の11時になっていた。
「さて…儂はそろそろ寝るのじゃ…雪~…早く行こうぞ~…」
「ん…フワァ~…」
「私も寝るよ~…リナちゃんおやすみ~…」
皆、寝床に着くようだ。
昨日は特に録画しているアニメは無い。私は録画勢なので、こういう時はよくあることだ。
「さて…なら私もそろそろ寝ようかな…」
* * *
…草木も眠る丑三つ時……とでも言うのだろうか
…寝てから何時間経ったのだろう…私は目を覚ましていた。
理由はあまり言いたくない。そして、今は変に動くことも出来ない。
何故ならば……
『ギシリ……』
何かが軋むような音が部屋から聞こえてくるからだ。
目は閉じているが、今の時間帯は真夜中。それに眠りの浅い私の睡眠状況が相まって、私は目を覚まし、よく音が聞こえる状態になっていた。
音の大きさと方向からして想定するに、恐らく音の正体はベッドが軋んだ音。そして音を立てている『何か』は…
私の目の前にいる。
「……………。」
「……………。」
私もそうだが、『何か』も喋るような気を感じない。
…少し気配が強くなった。
どうやら、私に顔を近付けているようだ。そして、私の匂いを嗅いでいるのか、フンフンと鼻を動かすような音も聞こえてきた。
その時、私の周りにフワッと甘い香りが漂った。
…バニラ…なのか…?
バニラなら…抱き付いてくる程度であろう…
そう安心しきった時だった。
『ペロッ…』
突然首筋を舐められた。
___________________!!!??
舐められたことにより、私は反射でビクリと身震いをしてしまった。
『何か』はその反応に戸惑ったのか舐めるのを止めたが、しばらくすると再び首筋を舐め始めた。
…舐められたところが適度に温かくて気持ちい………って、舐められ続けている場合ではない!!
…落ち着け…落ち着くんだ水無月 梨奈…この状況をよく考えて、今、私の目の前にいる『何か』を推測するんだ……
…まず、今の舐められた事でバニラの可能性は消えた。何故ならバニラはこういう状況の時は、さっきも言った通り、舐めるなんて事はせずに、布団の上から思いっきり抱き付いてくるヤツだからだ。
そして、影雪の可能性も無い。影雪は体温が氷のようにとても低い。さっき匂いを嗅がれた時に当たっていた息は、温かった。『何か』が影雪なら、当たる息は冷気の筈だ。
…となると、コーンも無い。コーンは影雪が大好きなヤツだ。影雪は寝るときに、無意識ではあるだろうが常にコーン(の尻尾)に抱き付いていると以前コーンから聞いた。なら移動は出来ない。それ以前に、影雪に一途なコーンが私にこんなことするなんて考えられない。
つまり…結論は……
『私の首筋を舐めている何かは、水無月家にいる誰かではない』
…『何か』はいまだに私の首筋を舐め続けている。
こうなったら正体を確認するまでだ。
……リナ、開眼。
「貴女…誰…?」
「…ふみゃ……?ぴゃっ!?」
私は私の上にまたがって、首筋を舐めていた『何か』に携帯のライトを当てた。
「や…やめてぇぇぇぇぇぇ!!私明るいの苦手だからぁぁぁぁぁ!!!」
予想以上に慌てふためいた『何か』。
段々と目が慣れてくると、『何か』の姿がハッキリと見えてきた。
褐色の肌に赤髪。瞳はルビーのように赤く輝いている。そしてその内の左目を前髪で隠していて、その赤髪にはところどころに黒のメッシュが……ってあれ…?
「貴女…涼風さん家の…ブラッド・キューラ…さん?」
* * *
「…まさかスズさんのお友達なんて…」
『何か』…改め、『魔法少女、ブラッド・キューラ』は私にまたがっていた状態を崩し、ベッドの上で私と向かい合わせになっていた。
そして、部屋の明かりをつけたことにより、彼女のパーカー姿と影雪程大きい胸が私の目に写し出された。
「あれ…?私の事知らない…?自分で言うのもどうかと思うけど私、涼風さんの八百屋の常連だよ?」
「あ…もしかして…スズさんが言っていた水無月 梨奈さん…!?」
ブラッド・キューラはハッとした表情になり、「気付かなくてごめんさいっ…!!」と謝ってきた。
謝るほどの事ではないとは思うのだが……
…そういえば、何でこの子は私の家…というか部屋に…?
そんなことを考えていると、
「…あの……!!」
突然ブラッド・キューラが私の手を握りしめてきた。
「…いきなりで本当に申し訳ないとは思うのですが…吸血させてくれませんか…!?」
「…あ、うん……………え?」
…今……何て……!?
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