第17話 新入りのC.M

「よお、久しぶりじゃねーか。」


「フウルさん!ご無沙汰しております!」


「ん、収穫は終わったみてーだな。ご苦労さん。」


山から降りてきたフウルとグリーン、そして私は早速皆のいる畑へ向かった。どうやら作業は終わっているようだった。


「うわぁ…本当に葉っぱだ~」


「バニラちゃんくすぐったいよ~!」


バニラはグリーンと和気あいあいとしていた。出会って数秒しか経っていないと思うのだが、もう仲良くなったようだ。


「うぅ…」


呻くような声の方に視線を向けると、コーンが唸りながら腰を叩いていた。


「農作業というものはキツいのぅ…腰が…腰がぁぁぁぁ…!!」


口調も合間って、おばあさんのような印象を受ける。


「影雪さんは?まだ寝てるの?」


「忍者さんはまだ寝てるモコ~」


コットンは奥の山小屋を指差した。


「そういえばフウルちゃん、どうしてここに来たモコ?それにグリーンちゃんも…珍しいモコね?」


「ほとんどお前の差し金だろーが…聞けばリナは涼風みてーに魔法少女達と暮らしてるそうじゃねーか。で、どうせなら会いに行こうって事になったんだよ。」


「何のことモコ~?」


フウルとコットンは野菜の入ったかごを持ちながら話始めた。

コットンもそれに続き、野菜を運んでいく。


そして私の視線の先には遊んでいるバニラとグリーンの姿があった。

遠目でしか見えないが、グリーンが白い何かを生やして、リング状の物を作っているようだ。


「シロツメクサの花冠か。グリーンやつアイツにすっかりなついてやがるな。」


フウルは微笑みながら二人を見ていた。


しかし私は身体から植物を生やすグリーンを見て、私はついぼそりと言ってしまった。


「グリーンさんもそうだけど…フウルさんも…」


「…魔法少女っぽくないってか?」


フウルはいつの間にか私の目の前に立っていた。


「あ…ごめんなさい…何か私の思ってた魔法少女とは見た目とか違うなって思って…」


「…まぁな。魔法少女ってのはステッキを持ったりフリフリの衣装ってのが世間一般的だろうからなぁ…俺も魔法少女になる前はそうだった。」


「そうなんですか?…確かにバニラさんもオーバーオールだし…コスプレ感があるのもコーンさんだけだしなぁ…」


「俺はリナより魔法少女には会ってると思うんだが…まぁ、ステッキやフリフリの魔法少女ってよりはデケェメスとか鎌とか武器にしたナースだったりステゴロメイドだったり色々いたぜ?この町にいるしよ、紹介でもしてやろうか?」


この町にどれだけいるんだよ魔法少女…というか二人共物騒過ぎる。


「あぁ、それとよ。リナ。」


「はい?」


「お前、魔法少女と暮らしてそこそこ経ってんだろ?ならそんな他人行儀なさん付けしないで呼び捨てでもいいんじゃねーか?俺も最初はグリーンのことグリーンさんって呼んでたけどよ。」


フウルは近くにあったトマトをもいでそのままかぶり付いた。


「ん。いい出来だ。」


「…他人行儀…ですか…」


「…まぁ無理に呼び捨てにしろなんて言わねーよ。そういうのは自分のペースってヤツだしな。気が向いたからでいーんじゃねーか?」


フウルは八重歯を見せながら笑い、食べ掛けのトマトを一口でたいらげた。


「フウルさん、野菜の仕分け終わりました!!」


「キューラ。お疲れさん。」


フウルはキューラの方へと向かった。


…他人行儀……か……


* * *


「さてと…持ってくモンはジャガイモ10㎏とトマト4㎏と…スイカが40㎏だな。後はハチミツの瓶詰め2ダースか…キューラ大丈夫か?これ全部持ってけるのか?」


フウルは山積みの段ボールに野菜を入れ始めていた。


「な…なんとか…でも、行きは影雪さんが乗せて来てくれたのですが…流石にお疲れのようですし…バスを探してみることにします。」


「ああ…キューラと涼風、いっつも親父さんの軽トラで来てたからな。…ってことは親父さん今日は涼風の看病か?娘思いじゃねーか。」


「…じゃあモコの魔法を使うモコ~」


いきなり出てきたコットンはそう言うと魔法の『フワフワの綿で皆を癒す』を発動させた。コットンの手にはビー玉程の小さい綿が生み出される。コットンがそれをふぅと吹くと、小さい綿はむくむくと膨らんでいき、やがて人が乗れそうなくらいの大きさに成長していった。


「この『ワタグモ』なら乗れるモコ~魔法の綿だからちょっとやそっとじゃ壊れないモコよ~」


コットンは得意気にふーんと鼻を鳴らした。


「じゃあ後は…」


影雪を夢の世界から戻すだけだ。


* * *


「影雪さーん。起きてくださーい。」


身体を揺さぶってみたが起きる気配は微塵も感じない。


「コットンさん、影雪さん全然起きないのですが…」


「不思議モコね~…でもさっき添い寝したけどその時は少し起きてた感じだったモコよ?それが可愛くてギュ~ッってしたら……これもしかしてモコのせいモコ?」


「…ですね。」


「雪ぃ~起きるのじゃ~」


コーンが影雪をつついたり、ほっぺを引っ張ったりしたが、影雪は寝たままだ。


「これは最悪寝たまま持って帰るしか…」


私がどうにかしようとして振り返った時だった。


「ひゃあぁっ!?」


突然のコーンの叫び声。


「ゆゆゆゆゆゆゆ雪!?どうしたのじゃ!?」


「んん~…モフモフしてるぅ…」


再び振り返ると、影雪はコーンに抱きつきながらむにゃむにゃ寝言を言っていた。

どうやら影雪はコーンをぬいぐるみのようなものに寝ぼけて勘違いしているようだった。


「あらら…大丈夫モコ?」


「コ…コットンさん、大丈夫なんですか…?あの綿って…」


「モコの魔法の綿はモッコモコのフワッフワモコから…物凄い癒しの効果があるモコ。忍者さんは今夢の中で自分の思う幸せを満喫しているモコ…」


それってつまり…


「う…うあぁ……も…もうりゃめぇぇ……」


頬擦りをされ、胸を揉まれ、寝息が首筋にかかったのがとどめとなったのかついにコーンは力尽き、それと同時に影雪に思いっきり抱きつかれた。コーンは顔を真っ赤に染めていたが、表情はどことなく幸せそうで、だらしなく涎まで垂らしていた。


「何か…ごめんモコ…」


「あ…いえ…」


コットンは申し訳なさそうな顔をしていた。


「コーちゃんどうしたの~?」


「この子耳と尻尾ある~フウルみた~い」


さっきまで遊んでいた二人が戻ってきた。


「どーすんだ?リナ。このまま持って帰んのか?」


「そ…そうですね…」


私はキューラ達に手伝ってもらい、コットンの綿の上に幸せの影雪とコーンを半ば雑に放り投げた。ワタグモはまだまだ余裕そうだ。


そして、空いているスペースにあった段ボールに出荷する野菜を入れ、まだ空いているスペースにコットンを含む魔法少女3人と、人間1人を乗せた。

何でもコットンが近くにいないと、魔法の綿は消えてしまうのだそうだ。


* * *


「じゃあな。また来てくれよー」


「みんなじゃーねー!!」


バニラは二人に手を振り、コットンが「テイクオーフ!!」と叫ぶと、ワタグモがフワリと浮かび上がりそのまま風に乗って進み始めた。


かなり高く飛んでいて、下を見ると車が豆粒のように見え、時折鳥と並走することもあった。


しばらく飛んでいると、右側からの強い光に照らされた。


夜明け…え?今?


「そういえば今って何時なの?」


「えっとね~…え!?まだ朝の7時だよ!?」


「あはは…八百屋の朝は早いんですよ?私は吸血鬼なので朝は苦手ですけど…」


「そういえば、吸血してなかったんですよね?大丈夫なんですか?」


「ええ…実はバニラさんから少し吸血させて貰っていたんです…」


え?


「そうなの?バニラ。」


「そだよー?キューラちゃんに血を吸わせて~って頼まれたから~…ってあれ?リナちゃん今『バニラ』って…」


「気が向いたから…ね。」


バニラは「うん!!」と言うとニコニコしながらすり寄ってきた。

心地いい甘い香りが辺りに漂い、バニラはそのまま私の膝の上で寝てしまっていた。


* * *


「ケホ…ありがとうね、キューラ。」


「スズさん…大丈夫ですか…?」


ワタグモに乗って空の旅をすること30分。

私達は無事、涼風さんの八百屋へと帰ってこれた。


「ちょっと風邪気味みたい…でも大丈夫だよ。お父さんがお粥作ってくれたから。」


「それなら良かったです…」


「水無月さんも、ありがとうね。お陰で助かったよ。それに、キューラもお世話になっちゃったみたいで…」


涼風さんは微笑んでお礼をしてくれた。


…確かにキューラには夜這いをされたり吸血されたりと色々大変ではあったが、キューラが涼風さんを想う気持ちには変えられない。キューラは涼風さんを助けるために私に吸血をしたのだ。


「いえいえ。涼風さん、風邪は大丈夫なんですか?」


「うん、大丈夫だよ。でもしばらくは安静にって言われて…どうしよう。キューラ一人だけだと流石に大変だよね…」


「…ならモコがいようモコか?」


いきなりコットンが話に割って入ってきた。


「モコがここに住むモコ。それなら野菜の仕入れもスムーズに出来るし、万が一涼風ちゃんに何かあった時にキューラちゃんが看病出来るモコよ?」


コットンの提案に、二人は顔を見合わせた。


「スズさん…どうします…?」


「コットンさんが大丈夫なら…助かります…コットンさんお願いしてもいいですか?」


「オッケーモコ!!」


こうして、涼風の八百屋に新しい魔法少女が住むことになった。


そして寝不足でフラフラになった私とまだ幸せの塊状態の影雪は、学校を休み、その日一日中夢の中へと誘われることとなった。

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