第16話 喧嘩するほどなんとやら(ただし、殺し合いに発展するのは除く)

「グリーンは『グリーン・プランテ』!グリーンは身体が植物の魔法少女だよ~!!」


ポーズを決めて得意そうにしているグリーンと言っていた少女は、しばらくそのポーズを続けていた。


「………」


「………ぎゅ~ッ」


少女は無反応…というかいきなり過ぎて頭が追い付かず、ただ呆然としていた私に近寄って再び抱き付いてきた。今度は頭の葉を私の胸に擦り付け、くすぐっている様に感じた。


「あっ…ごめん…無反応で…」


「む~…ちょっと寂しかった~…」


少女はぷぅと頬を膨らませた。

そしてまた頭の葉を擦り付けてくる。さっきは気が付かなかったが、少女はほのかに甘い香りがした。何かのフルーツのような感じがする。


…と、フウルが恐る恐るドアから顔を覗かせ、少女の様子を伺っていた。


「グ…グリーン…」


「あ~…!フウルゥ~…!!ふんっ!!」


少女はぷいとフウルから目を背けてしまった。


「グリーン……」


…何かあったのだろうか。


すると、フウルはコソコソと私に近寄り、声を潜めて話し掛けてきた。


(わりぃな…巻き込んじまって…)

(いえ…フウルさん…もしかして喧嘩してるんですか…?)

(あ…ああ…実は…グリーンのヤツ最近菓子ばっか食ってるから控えるように言ったらそれが発端でこの有り様よ…)


「む~っ!!なにヒソヒソしてるの~っ!!」


少女…ことグリーンはかなりご立腹の様子。

どうやら、仲間はずれは嫌な様だ。


「グリーン…控えろって言っても食べるなと言ってるんじゃねーんだよ…ちゃんと考えて…」


「ヤダーッ!!太陽の光飽きたのーッ!!!」


フウルの話も聞かず、グリーンは駄々をこねている。


…お菓子の食べ過ぎ…グリーンは子供っぽい魔法少女…いや、元々が子供だったりするのだろうか?


そんな事を考えている間に、喧嘩はヒートアップしてしまっていた。


「いい加減にしろ!グリーン!!」


「うるさ━━━━━いッ!!!くらえぇっ!『刺根っこ《スパイク・ルード》』ッ!!!」


グリーンがそう叫び足を床に突き刺すと、床から無数の刺の生えた触手が床板を滅茶苦茶に壊しながら飛び出した。


「えええ!?」


「おい!普通の人間がいるんだぞ!?」


フウルは戸惑いながらも私を護るようにしながら華麗な身のこなしでそれをかわし、うねる触手を回し蹴りで吹き飛ばした。その結果、私に攻撃が当たるとこはなく、グリーンは返ってきた触手にぶつかりその場に倒れてしまった。


「いたた…」


「グリーン!大丈夫か…?すまん…やり過ぎた…」


フウルはグリーンに駆け寄った。


「うん…だいじょぶだよ~」


グリーンはニコニコしているが、触手の刺が当たってしまったのか腕から血が滲んでいた。しかし、グリーンは何事も無かった様子でフウルの手をとり、起き上がる。…と同時にグリーンから生えていたツルが伸び、更に葉を生やした。その葉はグリーンの傷口に一人でに巻き付き、所謂包帯の役割を果たしていた。


「まだやるか…?グリーン…?」


「フウルがその気ならー…!!」


「いや…喧嘩してても何も解決しませんよ…」


「う…」

「そ…そう…だな…」


…私は初めて出会って30分も経っていないいきなりバトルを始める危なっかしい魔法少女二人の間に入り、もはや喧嘩と言うより殺し合いに発展しつつあった言い争いを止めることになっていた。


 * * *


「…じゃあグリーン、お前の食べる菓子一週間分の量をこのかごに入れておく、グリーンは菓子以外のエネルギーを光合成や根っこから吸収する。まぁ、後は普通にご飯からな。…で、それが守れたら…そこは要相談ってことで…いいか?」


「む~…いいよ~…」


グリーンは少し納得していないように見えるが、一応承諾してくれた。


二人の喧嘩の原因になっていたお菓子は一週間に決められた量しか食べない、それが守れたらフウルが何かしてあげるというルールで可決された。


「はい、仲直り。」


「ゴメンね…フウル…」


「こっちも悪かったよ、グリーン。」


…園児をあやす保育園の先生って多分こんな感じなんだろうなぁ…


とりあえず、二人の喧嘩は無事仲直りで解決した。


 * * *


「リナ…だったか?ホントわりぃな…届けもんに次いで喧嘩にも巻き込んじまって…」


「ゴメンね~…リナちゃん…」


「あの…もしかしていつもこんなバトルを…?」


「…はは…今回はちょっとやり過ぎちまったけどな…まぁ、そんな殺し合いみたいなことはしねーよ。グリーンは俺のパートナーだしな。」


フウルはグリーンの頭をワシワシと撫でた。


「まぁあれだ。リナも疲れただろ?ちょっと休んでけ。少し行った先に温泉もあるぞ?」


「あ、いえお構い無く…すいません、ちゃんとやりたいことが…」


私はズボンのポケットに手を突っ込んで…


「あれ…」


入れていたハズのスマホが無い。

フウルに会ったらバニラに連絡してコットンに伝えてもらおうと考えてたのに。


もしかして…道中の森で落とした…!?

…だとしたら取りに…いや、どこで落としたかも分からないし…


「…バスケットの中だ。何かの拍子に入ったんじゃねーか?」


…え?


フウルの言葉に一瞬戸惑ったが、足下に置いておいたバスケットの中を見てみることにし、確認してみると、


「…あっ…た…」


言う通り私のスマホはバスケットの中に画面を下にして入っていた。


「だろ?早く連れの魔法少女に電話したらどうだ?」


…何故か私のしようとしたことも言い当てている。


「どうして…分かったんですか…?」


「あ?あぁ、そういや…まだお前に自己紹介してなかったな…んじゃ改めて。俺のフルネームは『トレジャーフウル』っていうんだ。俺の魔法は『探し物をすぐに見付けられる』魔法なんだ。…後は観察眼ってヤツよ。結構そういうのには自信あるんだぜ?」


フウルはコスチュームである西部劇のような衣装を少し着崩し、首に巻いてあったバンダナをほどきだした。先程は帽子とスカーフ、さらに見下ろす体勢だったのでその顔はよく見えなかったのだが、フウルの瞳は透き通った黄色をしており、右頬には刀傷が付いていた。


「俺は子供の頃から冒険が好きでな。…グリーンとはその子供の時に出会ったんだ。そんで、今までこんな感じなんだよ。」


フウルはそう言うとニッと口角を上げて笑った。


「そだよーッ!グリーンもじこしょーかいー!!グリーンは『植物を操る』魔法少女でーす!!イエーイ!!」

 

いきなりグリーンも入り込み、勝手に自己紹介を始める。


その自己紹介は30分近く続いた。


 * * *


長い自己紹介を聞き終えた私は、その自己紹介をしていた本人グリーンにじゃれつかれていた。ほっぺを引っ張られたり、逆につつかれたり、さらには触手で捕らえてこようともしてきた。


フウルはコーヒーを飲みながらロッキングチェアに座り、本を読んでいる。…とフウルが本を閉じ、軽く伸びをし始めた。


「さて…そういやリナ達は涼風の代わりにキューラと野菜の仕入れに来たんだったよな?ならそろそろ終わってる頃だぜ。どうせだし俺も畑に行ってやるよ、リナん家にいる魔法少女も見てみてぇしな。」


「グリーンもグリーンもーっ!!フウル以外の魔法少女見たーい!!」


「決まりだな。」


フウルはニコリと笑ってバンダナを再び首に巻き始めた。


フウルは大人っぽくてグリーンは少し子供っぽい…それにさっきの喧嘩も…まるで親子だな…


そんなことを思っていると突然フウルが話し掛けてきた。


「…お前、さっきグリーンは子供っぽいなとか思ってただろ?」


…さすがの観察眼…


「はい…やっぱり元々の姿は子供だったりするんですか?」


「………」


フウルは少し間を置いてからおもむろに口を開いた。


「…いやぁ違うぜ?アイツは元々はただの植物だったんだよ。感情も感覚も知らないな。だけども魔法の力で魔法少女の肉体を得たって訳だ。まぁ…そのせいかは分からねぇが姿や体質は植物に近い様になっちまってるみたいだけどな。」


え…


「ごめんなさい、変なこと聞いちゃって…」


「なぁに、んな顔すんじゃねーよ。アイツのお陰で俺も毎日楽しいぜ?それに、コットンだってちゃんとそれを分かって接してくれてんだ。百聞は一見にしかず、聞いただけで判断すんのはよくねーってことよ。だろ?」


「フウル~!リナちゃ~ん!はやくはやく~!!」


グリーンはフウル以外の魔法少女に会うのが待ち遠しいようで、下り坂の途中でピョンピョンと跳び跳ねている。

…その笑顔はとても輝いていた。


「…な?」


「そう…ですね…」


フウルは再びニコリと笑うと帽子を目深に被って駆け出した。


「ああ!今行くぜグリーン!!」

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