第15話 ウルフ&プラント

坂道を登り始めて5分程経ったと思う。


最初は舗装されてある道を進んでいたが、奥に行くにつれて舗装してある道は途絶え、私はいわゆる道無き道を進んでいた。


鬱蒼うっそうとしている草木を避けながらただただとりあえず道と思える道を辿っていく。…いや、辿っていくことしか出来ない。ここで下手に道を逸れて進んで行って迷子にでもなったら大変なことになることは目に見えている。


それに、程よく木漏れ日が当たってとても気持ちが良い。最近体育の授業でしか体を動かしてなかったので丁度よかったと思えるリフレッシュにはもってこいの場所だ。


「あれ…」


しばらく進んでいると開けた場所に出た。

自然に出来たものかと思ったが、所々に切り株がある。人工的に作られたものだということだ。


コットンの言う切り株の場所というのはここで間違いないだろう。


…辺りを見回してみると、ログハウスが佇んでいるのに目が止まった。

周りには樹木がいくつも生えていて、まるでログハウスを隠しているようにも見える。そして、一際巨大な樹木がログハウスの屋根を貫くように生えていた。


…何だろう…この巨木…不思議なエネルギーみたいなのを感じるような…これが所謂『神聖な力』とでも言うのだろうか…?


私は周りを見回してみた。


コットンはそこら辺の切り株にいるだろうとは言っていたが、その姿が見当たらな…


「…ん?」


いた。多分あの人だ…

彼女は遠目でもよく分かる見た目をしていた。


「あの…」


近寄って声を掛けると彼女の耳がピクリと動いた。


「…?誰だテメェ…」


彼女の耳は犬のような…いわゆるケモ耳というものだった。


「俺に何か用かァ…?」


ケモ耳の生えた魔法少女は若干怒っているような口調で、そして帽子の隙間から鋭い目付きで私を睨み付けてきた。


…メッチャ怖い魔法少女じゃん。


「えっと…コットンさんからフウルさんを励ましてほしいとお願いされまして…」


「コットンが…?…相変わらず世話焼きだな…アイツは…」


「あの…フウルさん…なんですよね…?」


「…ああ。俺がフウルだ。」


フウルは切り株から立ち上がり、私が持っていたバスケットからの匂いをフンフンと嗅ぎ出した。


「この匂い…コットンのサンドイッチだな?」


「あ…はい。コットンさんがフウルさんがしばらく何も食べてないだろうって…よくわかりましたね…」


「俺は狼の魔法少女なもんでよ。普通の人間や魔法少女よりは鼻が効くって訳だ。…わりぃな、お前にこんな仕事任しちまって…ありがたく戴くぜ。…そうだ、どうせならお前も食え。腹減ってるだろ?」


フウルは切り株をペチペチと叩き、座るよう促した。


「いえ…でも…」


断ろうとしたが、私の腹の虫が物欲しげに音を立てたので私は体温を一度ほど上げそうになりながら切り株に座ることにした。


「美味しい…」


「だろ?コットンは料理が上手いんだ。アイツには世話になりっぱなしだな…」


フウルも近くにあった切り株に腰を下ろし、サンドイッチを食べていた。

コットンの作ったサンドイッチは野菜とハムというシンプルなものなのだが、レタスやトマトがみずみずしく、いくらでも食べられそうな程に美味しい。


「そういえば…フウルさんはあの畑のオーナーさんなんですか?実は今日キューラさん達と来てて…」


「いや…オーナー…ならログハウスの中だ。…実は…ちょっと俺は今アイツとは気まずい状況なもんで…頼む、お前が行ってきてくれないか…?」


フウルは申し訳なさそうにしながら頼んできた。それと同時にフウルのケモ耳もぺたんと垂れてしまっていた。


「え…あ、はい…」


「ありがとな…」


私は後ろを振り向き、鬱蒼としている木々の中にあるログハウスに向かうことにした。


* * *


「失礼します……」


私は恐る恐るログハウスのドアを引き開けた。

…少し中は暗いが、だんだんと目が慣れてくると、人影の様なものが確認できた。


「…ふえ?」


目の前には全裸の少女がいた。

頭に緑色のリボンなようなものを結んでいる以外は何も身に付けていない。


つまり…色々な部分が丸見えな訳で…


「ご…ごめん…」


「何が~?」


…え。


「だいじょぶだよ~?グリーンいっつも服着てないも~ん」     


そう言うと先程グリーンと言った少女が無邪気に抱き付いてきた。

…身長が私より低い少女が抱き付いてきた結果、少女の柔らかいものやその先のが動く度に当たって少し恥ずかしくなってしまう。


…しかし、そんな私のよこしまな気持ちは抱き付いている少女の手や頭を見て一瞬で吹き飛んだ。


「ねぇ…その手…」


「手~?」


抱き付いてきた時に少しゴツゴツとした違和感を感じていた。この子の手は普通の人間とは違う…これは…木?

それに…さっきリボンだと思ってたこれ…触ってみるとすぐに分かった…これは…葉っぱだ…


「リボンがどしたのー?」


少女は抱き付いた状態のまま顔を上げて私を見つめてきた。


ち…近い……


「服…着ようよ…?風邪引いちゃうよ…?」


今の私の頭はこの状態を何とかしなければということでしか働いていなかった。


「服~?」


私に抱き付いた状態から離れた少女はそう言うと木のような腕を伸ばし、テーブルに置いてあった緑色のチューブのようなものを手に取った。

そして、そのチューブの中身をゼリーのように吸い始めた。


「何してるの…?」


私が少女に手を伸ばそうとすると…


「…んあぁっ!!」


少女がビクリと身震いをした…と思うやいなや、うなじから大量のツルが生え出した。うなじから生えたツルは急速に成長し少女の髪や脚に絡み付く。更にそのツルは少女の陰部を隠すように葉を生やし…


「どう~?」


葉で作られた服…いや、下着姿となっていた。


「どうって言われても…」


少女は一応私の言うことを聞いてくれたようなのだが、私の思っていた服とはかけ離れ過ぎていたためどう反応すれば正解なのか分からない…


「…いいんじゃない?似合ってるよ。」


「えへへ~」


…とりあえず褒めてみたら喜んでくれた。これが正解なのだろうか…


「お姉ちゃん誰~?グリーンに何かよう~?」


「私は水無月みなづき 梨奈りな。キミは…一体…?」


少女はニコりとしてこう名乗った。


「グリーンは『グリーン・プランテ』!グリーンは身体が植物の魔法少女だよ~!!」


…アイドルのような決めポーズをビシッと決めながら。

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