水無月マジカルデイズ

シャドルナ

第1話 プロローグ

魔法少女。

その存在をどう捉えるかは人それぞれだ。「テクマクマヤコン」で変身する魔法少女もいれば、「メタモルフォーゼ」と唱えて変身する魔法少女もいる。


…なんてことを昨日ネットのスレッドで観覧し、それをただただ見ていたなぁ。と思い出しながら私は朝ごはんのハムエッグを口に運んだ。


今日は高校の入学式だ。今日から私は高校生デビューする。そこまで頭が良いわけではなかったが、一番近いという理由で受験し、見事に合格した。


なんでこの事と魔法少女が繋がるかと言えば、特にない。ただ単純に頭にポッと浮かんだだけだ。しかし、何故か頭から離れない。アニメでも魔法少女ものは人気で、沢山放送されているらしい。


しかし、私はアニメ好きではあるがが魔法少女アニメは観たことが無い。


理由は「私自身がそんな展開に巻き込まれたくないから」だ。


突然よく分からないマスコットキャラから魔法の力を授かり、正義の為に使っていたら他の魔法少女たちとの殺し合いに巻き込まれる。そんな波乱で危なっかしい展開など私の人生には必要ない。私は平凡に、普通に生きていきたいのだ。もしも私の周りに魔法少女がいたらその魔法少女には絶対に近寄らないという自信が私にはある。


…といっても魔法少女というものはあくまで「2次元の世界」だ。実際にその魔法少女が現実世界にいるなんてそんな非科学的な事はあり得ない。


コーンスープを飲み干し、リビングの掛け時計に目をやった。時計の針は「7時32分」を指していた。高校に指定されていた登校時間は「8時15分」。今から登校しても時間に余裕がありすぎて教室で寝てしまいそうだ。


…少しテレビでも観ようかな。


テーブルの端に無造作に置いてあったリモコンを手に取り、電源ボタンを押した。チャンネルは昨日と変わらない。電源の入ったテレビは朝の顔と呼べる爽やかなアナウンサーが最近話題の俳優や芸人にクイズを出題している画面を映し出した。


しかし、私の目にはその爽やかなアナウンサーも、話題の俳優や芸人の姿も入らなかった。


画面の左上。時刻の表示。リビングの掛け時計は今まで「7時32分」を指していた筈だ。なのにテレビの時刻は「8時」を表示している。全国放送のテレビ番組の時刻表示が狂う訳がない。


…ってことは……


私は朝ごはんの後片付けも戸締りも気にせず、玄関を飛び出した。


* * *


見慣れた道を全力で走る。下見で高校までの道のりを図ってみたが、その時の時間は「12分」だった。なら、歩く倍のスピードなら単純計算でも6分で辿り着く筈だ。現在時刻「8時3分」!!大丈夫間に合う!!


そんな私の思考はとある「モノ」で停止した。


…段ボール。それもかなり特大サイズの。目の前の道の端に置いてあった。ただの一本道であるこの場所には存在感が強すぎる。


…いや、それ以上に存在感を放っているモノがあった。


中身…人…?


目の前にある段ボールの中には「拾って下さい」と書かれた紙を持っている人が入っていた。雪のように白い髪、風に揺れる度に銀色に光っている。フワッとしている髪型だが、所々癖毛がはねている。その白い髪には大きな青い星のコサージュがあしらわれていた。水晶のように透き通った水色の瞳は見ているだけで吸い込まれてしまいそうだ。整った顔。誰がどう見ても美少女だ。


可愛い…って見とれてる場合じゃない!!


「ねぇ」


走りだそうとした私にその美少女が話しかけてきた。


「えっと…何?」

返事をしてしまった。先を急ぎたいのだが、リアルで美少女に声をかけられたのは初めてだったので気が動転していたのかもしれない。


「アイス食べる?」


これが、私とこの子との出会い。これまで魔法少女なんて信じてこなかった私は、この子との出会いで大きく運命を変えられることになるのだった。

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