(11)

 ドラゴンが死んだ後、少年は山羊や鳥たちの言葉が分からなくなった。

 そのかわり、人間の友達がたくさんできた。


 ドラゴンの体は、村人たちによって、湖の畔に手厚く葬られた。


 少年がドラゴンの体から抜いて植えなおした花々は、美しい花畑になった。

 その花畑と湖に囲まれるようにして、ドラゴンのお墓はある。


 少年は毎日、そのお墓にお参りをした。


 新しい友達ができると、その友達も連れていった。

 恋人ができると、恋人と一緒に行った。

 家族ができると、その家族も連れてお参りをした。


 雨が降ると、ドラゴンが暮らしていた洞窟で雨宿りする。

 苔の絨緞でふかふかになったその洞窟から、昔、ドラゴンが見ていたはずの雨を見る。

「ドラゴン……」

 かつての少年は時々、心の中で語りかけるのだった。



 寂しいよ。



 それは、友達がたくさんできても、大人になっても、消すことのできない寂しさだった。

 命あるものは、いつか死ななければならない、とドラゴンは言っていた。みんな、たくさんの大切なものを失いながら生きていく。寂しさという感情があるのは、その大切なものを忘れないためかも知れなかった。


 泣かなくていいんだよ。


 ドラゴンが生きていたら、きっとそう言うから、涙は見せなかった。

「明日も来るから」

 そう言って、少年はドラゴンのお墓をあとにする。


 やがて、少年も年老いて死んだ。

 ドラゴンのお墓参りは、村人たちに受け継がれていった。


 千年も生き、そのうちの数百年間、ひとりぼっちで孤独と絶望とに耐え、最後は友達の村を守るために戦って死んだ、伝説のドラゴン。


 そのお墓の傍らにある碑には、こう刻まれている。



  心強きドラゴン、ここに眠る。




   (ひきこもりドラゴン 終)

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ひきこもりドラゴン 月嶌ひろり @hirori_ai

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